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競馬コラム

心地好い居酒屋

2017年12月10日(日)更新

心地好い居酒屋:第33話

<七つ下りの雨と四十男の道楽はやみそうでやまない>とはよく言ったもの。8日午後の天気予報は“5時頃から7時前後までが雨。夜遅くには上がる”とのことだった。傘を持ちたくない遠野としては、先人の知恵に逆らい天気予報に期待、小降りになったのを見計らって出かけたのだが、豈(あに)はからんや築地に着いた時は本降り。

駅の近くにコンビニはあるが側にはなく、喫茶店で雨宿りしたのだが、遂にタイムオーバー。やむなく「頑鉄」に電話、事情を話して傘を頼んだ。と、やってきたのは何と梶谷だった。「おまさちゃんが来るとは!」と仰天。「だって、今日は4人の忘年会でしょ」とニッコリ。

癖なのか上目遣いにチラッと舌をのぞかせる仕草が愛らしい。聞くとすでに全員が到着、今や遅しと待っているらしい。

引き戸を開けると暖かく湿った空気がドッと押し寄せてきて、冷え切った眼鏡が一瞬のうちに曇り、視界がボヤけたが、賑やかな声も聞こえてきて、かなりの盛況のようだ。曇った眼鏡を拭きながら「悪い悪い…。待たせちゃって申し訳ない」と詫び、空けておいてくれた指定席に腰を下ろすと、迎えにきた梶谷が隣に座った。遠野の前は阿部秘書で、その隣が井尻。親爺は「らっしゃい。すぐ行くから」と言い、仲居と一緒に働いている。

遠野が到着するまでの間、熱いお茶の他に飲食した形跡はなく、井尻が阿部秘書に、その後の様子をいろいろと訊いていたみたいで「ええ、ですから……」と答えている時だった。が、話は中断「冷たい雨の中お疲れさまです」。二人して遠野に敬意を表した。

「7時過ぎたのだから先にやっといてくれれば良かったのに」と、遠野が言うや否や「ほい!お待たせ」。親爺の声と一緒にお通しの白子とサービスの出汁がら昆布の佃煮とビールが、そしてあたかも注文していたかのように「千寿」の熱燗が運ばれてきた。

他の客の方も一段落ついたのか、親爺も小上がりに腰掛け、井尻にビールを注ぎ、自分は梶谷から酌を受けた。“とりあえず”ということで乾杯した後、親爺が「あれを」と仲居に指示すると四杯のお椀を持ってきた。遠野を含め一様に怪訝そうな顔をすると「とのさんも知らないみたいだね?」。親爺嬉しそうだ。

「ほら、京子ちゃんところの社長の言う旧暦“7月19日の禁門の変”じゃないけど旧暦の今日12月8日は“事納(おさめ)”と言って、江戸時代はお百姓を中心に庶民達が感謝を込めて6種の根菜汁を食べていたらしいんだ。それを思い出してね。寒いし、一杯飲る前に体の芯を暖めてもらおうと…」。珍しく雄弁である。

ちなみに6種とは芋、牛蒡、大根、人参、小豆に慈姑(くわい)とか。「ふ~ん。親爺凄いじゃん。長いこと付き合ってるけど初めて聞いたよ」。遠野が感心すると「へへっ。実は俺も知ったのは今朝なんだ。ほら、富岡八幡であんな事件があったろ。市場はその話で持ちきりでさ。中に神事や故事に詳しい奴が居て、神社本庁や五穀豊穣のことなど喋りまくっていたんだ。その時に“事納”と“6種汁”の話が出たってこと」と頭を搔く。

それにしても旧暦7月19日と12月8日をスンナリくっつけるのは並大抵ではない。親爺の機転と阿部秘書への関心の高さが窺い知れる。

「“事納”があるのなら“事始(はじめ)”があってもおかしくないですね。稼業の組織が12月13日に“事始”をするのは、旧暦の習慣を引き継いでいるからかも知れませんね」。訊いちゃあいないのに井尻が口をだす。確かにその通りだが、今の井尻には、もっと重要なことがあるはずなのだが…。

「あら。井尻さんは社内より、そちらの方に興味がお有りですか」。阿部秘書が皮肉っぽく言う。「あ、いえいえ。すみません。さっきの続きですが、やはり年内で出稿は終わりですか」。改めて尋ねた。

阿部秘書と梶谷は二人して6種汁を啜り、梶谷は椀底に沈んでいた根菜を摘まみ上げ食した。「う~ん。微妙な味」と一人呟き、阿部秘書は「ですから結論は来年まで持ち越し。だって広告局長まできて、頭を下げるんですもの」と言い根菜を口に入れた。

親爺は気を遣い新しい熱燗を3人の前に置き「手酌でどうぞ」と。刺し身はいつもの鮪に加え鱈(たら)の昆布締めと肝たっぷりのカワハギだ。

刺し身を摘まみながら手酌で一本空けた阿部秘書は「体も暖まったし、冷酒下さい。遠野さんと“梶”は?」。すると二人して「お付き合いしましょう」。「へいへい」と言い親爺は立ち上がり、「洗心」のボトルとグラスを持って帰ってきた。

「それにしても井尻さんは拘り過ぎですよ。ねぇ遠野さん」。話を振られた遠野が答える。「頭(社長)がしっかりしたオーナー会社と違って人材不足で、ややこしい力関係だからなあ。京子ちゃんだから言えるけど、甘方なんてのは権力志向が強く狡猾そのものだし、他の局長連中は総体的な能力が…。強いていえば総務の小池がまともかも。そうそう、一緒に行ったらしい広告の藤並なんてのは膏薬みたいに、どこにでもくっつく奴だからね」。一気に喋り、喉が渇いたのか「洗心」を飲み干した。

それでも納得できない顔付きだ。「あのね。本当にばかばかしいけど現実なの。甘方みたいな奴が権力を握れば社員を敵か味方でしか判断しないんだから。井尻には『自分の能力を信じていい仕事を心がけろ。上の奴らとは付かず離れずで行け』と言ってはいるんだけどね。もっとも、甘方が稼げる編集者じゃなくなったら上層部の評価も落ちるのは確実で役員人事は混沌としてくるはず」と噛んで含めるように説明すると「なんだか遠野さんは高見の見物で楽しんでいるみたい」。「さすが京子ちゃん。その通り!ただ井尻が心配でねぇ」。心境でいえば梶谷も遠野と同じで井尻のこと以外は<我関せず>で、刺し身の後、新しく運ばれてきたカキフライに舌鼓を打ち、冷酒を飲んでいる。

「ほら、京子ちゃんも食べて。このカキは生食用で特別なレシピで作った一品だから旨いよ」と。続けて「今日は海鼠腸(このわた)も仕入れているし、たくさん食べて飲んでよ」。親爺は阿部秘書に猛烈なプッシュを。まさか“老いらくの恋”じゃあるまいが、最近のもてなし方は“異常”に近い。おかげで遠野も含め皆が値段以上の料理を食えるのだから文句は言えない。 <六十男の色恋道楽は…>


【著者プロフィール:源田威一郎】
大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。

斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。

競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。