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競馬コラム

心地好い居酒屋

2019年05月19日(日)更新

心地好い居酒屋:第67話

 4月の飲み会ではお嬢達が来る前に馬券検討。「皐月賞」に続き「天皇賞」を的中させた験を担ぐ訳じゃないが、5時過ぎには「頑鉄」のカウンターに2人並んで座っていた。

 最近は若い板前の吉野も手慣れたもんで、黙っていても焙じ茶と茶請けが出てきた。蕪の浅漬けだ。「ありがとう」と言い蕪を一口。初夏にしては旨い。蕪の厚さと塩加減もさることながら千切りにした柚子の歯ごたえと香りがいい。塩揉みした蕪の葉っぱも添えられており白、黄、緑の色合いも気が効いている。

「なんだか親爺の懐石の一品みたいで懐かしいな。これ吉野君?」。訊くと、照れた様子で「細かい所は親方に教えて貰いながら」と。続けて「お通しとは別に梶谷さん達にもお出ししようと親方と相談していたのですが…」。含羞(はにか)みながら答えた。<ここにもおまさちゃんと京子ちゃんのファンがいたのか>。納得しながら「井尻はともかく、目も口も舌まで肥えてる2人の美女の判定が楽しみだな」。聞いてた親爺は苦笑いだ。

「ところで『ダービー』は何から買うの。やはり『皐月賞』で推奨していたサーなんちゃらかね。とのさんもお嬢達も儲かったし…」と言いながら隅に置いてあった「日刊スポーツ」の“ダービー特集号”を引き寄せた。大見出しは“サートゥル新無敗伝説”だ。「確かにサートゥルナーリアは強いけど…。どうも気にいらん」。ディスり気味に言い、焙じ茶のお代わりを要求し蕪に箸を付けた。

「やっぱり『皐月賞』の審議結果が尾を引いてるんだ。でも馬には関係ないだろ」。親爺が反論してきた。「いやいや。ルメールと審議の一件については、俺の中で解決済み。じゃなくて、馬にも問題ありってこと。断然人気に推されるほどの能力の持ち主かどうか…。もちろん何が来ても配当が一緒ならサートゥルナーリアだけどな」

「うん。そう言やぁ清水さんの“人気馬を疑ってかかることから検討しろ”には俺も助けられたことがあったし。で、サーなんちゃらの死角とか弱味は?」。真剣な顔付きで遠野の方を向いた。

「直線で内に切れ込んだのは、馬に余力がなかったからなんじゃないか。それでも4連勝で無敵かのように喧伝されているのもシックリいかん。次に疲労だ。『ヴィクトリアマイル』を勝ったノームコアの骨折が判明したように強い馬ってのは限界を超えて走るからなぁ。『皐月賞』の時ほどの信頼感はない」。キッパリ言い切ると、さすがに喉が渇いたのか、今度は氷水を頼んだ。

「じゃあ軸は?」「正直難しい。一応ヴェロックスかなとも思っているんだが、ダノンの2頭に大穴でニシノデイジー、それにサートゥルナーリアを加えた5頭ボックス10点もありかな、と」。親爺が差し出した「日刊スポーツ」に目を落としながら答えた。

「お嬢達の預かり資金は7000円に増えたんだし、10点でもいいんじゃない」と親爺。

最初の『皐月賞』1000円は200円の5点で1900円になり『天皇賞』は100円足し2000円にして400円の5点が7000円になったのだ。
「いくら『ダービー』とはいえ女の子に転がしで全額買わせる訳にはいかんから、とりあえず配当として5000円渡し、残りの2000円で10点だな。うん、そうしょう」

「とのさんも同じ?」「額はともかくボックスは一緒。ただし俺はヴェロックスから別の馬に2~3点買う積もり」「じゃあ俺も馬連はその10点で、3連複は横ちゃんの本命とヴェロックスの2頭軸で買おう」。結論が出たところで「席に行こう。始めようよ」と。

 指定席には「洗心」とグラスが用意されており、座ると同時に、仲居がお通しの蒸し鮑を持ってきた。親爺と2人グラスを合わせ、一口飲んだ時ドアが開いた。<お、早い>と喜んだが、入ってきたのは例のゲーム屋4人で、遠野の存在に気がつくと「今晩は」と。今までは黙礼で済ませていただけにチョッピリ驚きながらも「あ、久し振り」。余裕で返した。親爺は「らっしゃい。入ってるよ」と伝え、カウンターに行くと、吉野に何か指示をし、小鉢を受け取り「刺し身までのつまみ」と言い、ひじきの煮物を前に置き、上がり框に座り込んだ。
「何を注文されてたの?」「バチコ(海鼠の卵巣)だよバチコ」。客には聞こえない遣り取りだ。「ふ~ん。相変わらずの上客じゃん。もっとも、俺は好んで食おうとは思わんがね」「まぁ~な。そうだ!サーなんちゃらと一緒でバランス(値段と味=人気と信頼)が取れてないかも」。親爺、分かり易くて面白い発想をする。

 仲居が新客の対応に追われている最中にお嬢達が到着した。珍しく3人一緒のご来場だ。

 3人がそれぞれの定位置に座るや否や親爺がお通しと例の蕪を運んできた。蕪を見た2人は「可愛い。綺麗」と。何口か食べた後、梶谷は「美味しい!」と褒めたが「もう少し前、旬の2月ぐらい、もっと柔らかくて甘いでしょうに…」。聞いた親父は「へいへい。吉野に伝えておきます」と。阿部秘書はクスッと笑った。邪気のない素直な娘2人だ。

 酒も進み、“旬”の金目鯛を摘まみながら、梶谷が報告した。「高にいが赤坂のクラブの伝票を切ったの」「いや、だからそれは局長から『切っといてな』と頼まれたし…」。井尻が弁解する。「遠野さんはどう思います?」。遠野は甘方(局長)の汚いやり方を初めて聞いたかのように驚き「えっ!それでお前は従ったのか?信頼されたとでも思ったのか」。一瞬、下を向いた井尻だったが「これには理由がありまして…」なんてのは無視。「確か以前に『気を付けろよ』と忠告したよな」。わざと大袈裟に叱った。

 割って入ったのが親爺で「その手の話はお嬢達の居ない時でいいんじゃないか」。すると鯒(こち)を摘まんでいた阿部秘書が「局長絡みの話なら私も参加させて下さい」と。「ま、金山や別部みたいな存在を希望するんなら、もう何も言わん」。井尻は黙ってビールを飲んでいたが「すみませんでした」。か細い声だ。「とりあえず“これにて一件落着”」。おどけ気味の親爺の科白が合図だったかのように、ヒイラギの煮付けが届いた。早速、梶谷がほぐして身を取り分けている。

「おっと、忘れるところだった。これ」。遠野が言い、封筒を2人に渡した。「前2戦の配当だよ。『ダービー資金』は2000円残しているからご安心を」「やったぁ!ラッキー」。2人とも純粋に喜んでいる。この笑顔が嬉しいから当てたいのだ。

「ところでバチコ炙るかい?」「俺はいい。お嬢達にあげてよ。感想を聞かせてもらおう。あ、可哀相だからついでに井尻にも」と。「あいよ!」。やっと、いつもの親爺に戻った。


源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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