先週の安田記念は、川田将雅騎手が騎乗したジャンタルマンタルが半年ぶりの実戦ながら見事な勝利を飾りました。
昨年のNHKマイルカップを快勝して以降は順調さを欠いていましたが、今回はすべてが噛み合った完璧な競馬だったように思います。
筆者が考える勝因は、大きく二つあります。一つは「岩田康誠騎手の仕掛けた罠に引っかからなかったこと」、もう一つは「川田騎手の好位キープ力」です。
レースは、テンの3Fが35.0秒、1000m通過が58.4秒という、マイルGⅠとしては落ち着いた流れとなりました。
このスローペースはある程度戦前から予測できるもので、前目の好位置を確保できるかどうかが勝負の分かれ目になると見てよかったでしょう。
川田騎手は好スタートを決め、外目の3番手という絶好のポジションを確保しました。もちろん、そこは誰もが欲しがる位置。外から岩田康誠騎手騎乗のロングランが、折り合いを欠きながらも前に出ようとします。こうした馬に付き合ってしまうと、自分の馬も気持ちが入りすぎてしまい、脚を無駄に使ってしまうリスクがあります。そのため、無理に付き合わず、やり過ごすという判断が一般的です。
ただ、これは岩田康騎手の項妙な罠で、折り合いを欠いた馬に絡んでいきたくないという騎手心理を逆手にとって、好ポジションを確保する高等テクニック。もし、川田騎手のジャンタルマンタルが、そこで控える判断をしていたら岩田騎手に前に入られ、さらに一気にペースを落とされていたかもしれません。
そうはさせまいと川田騎手は、インで抵抗するという選択を取りました。無理に抑えることなく、ロングランを前に入れず、自身のポジションを守り切ったのです。勝利ジョッキーインタビューでも、このシーンがこのレース最大の難所だったと語っていました。
こうした駆け引きを制した上での勝利は、まさに川田騎手の持ち味である「好位キープ力」が存分に発揮された結果と言えるでしょう。
折り合い、展開、そして心理戦——あらゆる局面で冷静かつ的確な判断を重ねた川田騎手の手綱捌きに、改めて拍手を送りたいと思います。
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樋野竜司
HINO RYUJI
1973年生まれ。「競馬最強の法則」02年11月号巻頭特集「TVパドック馬券術」でデビュー。
斬新な馬券術を次々に発表している人気競馬ライター。いち早く騎手の「政治力」に着目し、馬券術にまで洗練させた話題作「政治騎手(㏍ベストセラーズ刊)」で競馬サークルに衝撃を与えている。