先週のNHKマイルカップは、前半3F33.4秒という、スプリント戦並みのハイペースで幕を開け、波乱の結末を迎えました。
レース前は「逃げ馬不在でスロー」との見方が大勢を占めていましたが、いざゲートが開けば、GⅠという大舞台ならではの“勝負に出る逃げ”がいくつも重なり、結果的に想定とは真逆の流れとなった印象です。
そんな中で筆者が注目していたのが、19歳の吉村誠之助騎手です。
GⅠ最年少勝利の記録が懸かっていたこともあり、注目度は高く、筆者自身も「もしかすると、この舞台で思い切って逃げの手に出るのでは」と考えていました。
メンタルの強さに定評があり、堂々とした騎乗ぶりはルーキー離れしたもの。将来性は間違いなく高い逸材です。ただ、逆に言えばその強気な性格が裏目に出るのではないか、そんな危惧も抱いていました。
ところが、レースが始まってすぐに、その予想は見事に裏切られることになります。
吉村騎手は好スタートを決めたものの、周囲のペースの速さを瞬時に察知し、無理に先手を主張せずに好位のインに控える判断を下しました。結果として、直線でもしぶとく脚を伸ばし、5着に善戦。見せ場を作るどころか、結果でも存在感を示しました。
この冷静な判断力には、ただただ脱帽です。
筆者は正直、彼の気質を誤解していたと痛感しました。大舞台でこそ空回りしやすい若手中堅騎手が多い中で、しっかりと流れを読み、ポジションを決めるという「勝つための最適解」を選んだ吉村騎手。そこには年齢やキャリアを超えた“騎手としての成熟”すら感じさせられました。
GⅠ制覇には届きませんでしたが、この経験と判断力は今後の大きな糧となるはずです。いつか本当にGⅠを勝つ日が訪れたとき、私たちは「NHKマイルカップの5着が始まりだった」と振り返ることになるかもしれません。
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樋野竜司
HINO RYUJI
1973年生まれ。「競馬最強の法則」02年11月号巻頭特集「TVパドック馬券術」でデビュー。
斬新な馬券術を次々に発表している人気競馬ライター。いち早く騎手の「政治力」に着目し、馬券術にまで洗練させた話題作「政治騎手(㏍ベストセラーズ刊)」で競馬サークルに衝撃を与えている。