桜花賞馬のデアリングタクトが二冠目を手にした先週のオークス。
勝ちタイムは2.24.4秒と近年のレースと比較すると平凡ですが、上がり3ハロンの33.1秒はアーモンドアイやシーザリオを上回るおそらく史上最速の脚を繰り出たものと思われます。
ここではゴール直前でデアリングタクトに交わされて2着だったウインマリリンと横山典騎手のコンビに注目してみたい。
過去に芝2400mでテンの3ハロンが33秒台になったレースを調べてみると、99年以降、京都で7回、新潟で3回あります(東京と阪神は0回)。
どうして長距離戦でそんな飛ばす必要があるのか疑問に感じてしまいますが、京都も新潟もスタートから平坦な直線を600m以上走るので特に何も考えずに騎乗すると馬がどんどん加速して行ってしまう。気づくとペースが上がっているということがあるからでしょう。
それを踏まえて東京の芝2400mのコースを見てみると、1コーナーまでの距離が長すぎず短すぎず絶妙な長さになっています。
ダービーは1コーナーの攻防がもっとも激しいとよく言われますが、それは1コーナーまでの距離で馬が加速しやすい上に、どの騎手もいいポジションを獲りたいという意識が重なってチキンレースのようになるからだと思っています。
勝とうと思ったら勇気をもって出していくしかない。その争いに勝たないとダービージョッキーの称号は手にできないからでしょう。
しかし、一方でスピードに乗り過ぎて1コーナーに入ってしまうとそこで急ブレーキを踏むことになってしまう。ゴールまでのレースプランを考えると折り合いもポジション取りと同じくらい重要になってくる。だから、1、2コーナーで急激にラップが落ちてスローになることも少なくない。ダービーを行う舞台装置だけあってよくできているのです。
それをアタマに入れてオークスを見直してみると、横山典騎手は本来なら馬をなだめて折り合いを意識する1コーナーへの進入でさらに加速しているようにみえる。そしてこの動きには2つの狙いがあったと思っています。
ひとつめは逃げるスマイルカナを後ろからつついてペースを上げさせラチに寄せるスペースを作ること。そして、もうひとつは藤井騎手が騎乗するアブレイズを刺激せずに外から上手く交わすこと。
内で抵抗されてしまうとプランが崩れる可能性があった。なので、折り合いを意識してブレーキをかける1コーナーで一気に交わしたと思われます。
2番手のインに収まってからは、実質的にペースを握り、インでロスのない立ち回りをする完璧な騎乗。それを叶えるための1コーナーでの攻防が騎乗の秘訣だったとみています。
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樋野竜司
HINO RYUJI
1973年生まれ。「競馬最強の法則」02年11月号巻頭特集「TVパドック馬券術」でデビュー。
斬新な馬券術を次々に発表している人気競馬ライター。いち早く騎手の「政治力」に着目し、馬券術にまで洗練させた話題作「政治騎手(㏍ベストセラーズ刊)」で競馬サークルに衝撃を与えている。