先週月曜の中山のレースラップを見ると、12レース中9レースが加速ラップでした。
加速ラップとは、前の区間に比べて次の区間でタイムが速くなる、すなわち馬が加速している状態を指します。全馬余力を振り絞ったゴール前でそういう走りができる馬は能力が抜きに出ていることが多く、一般的にはラスト2ハロンのラップを比較してゴール前でさらに加速しているケースを指すことが一般的です。
ということは、先週の中山はそういう将来有望な馬たちが多数走っていたということなのでしょうか?
筆者はそうではなくて、単なる風の影響だと思っています。
先週の3日間開催の中山は、強めの南風が吹いていました。この風が吹くと、直線で追い風になるためここで速い脚が使えます。一方で、向正面は向かい風になるため、ここで速いラップを刻むとスタミナの消耗が激しくなります。このことから、一般的にこの風のときは差し有利になりやすいと言えます。
もっとも、ジョッキーもそういう風の影響を考えながらレースをしており、こういう風のときに逃げ先行馬に騎乗すると極力ペースを落として、仕掛けも極力遅くしたいという思考が生まれます。後続も速めに動くと風の影響でスタミナの消耗が激しくなるので動きたくありません。そういった意識がどんどん積み重なって、結果、加速ラップの大バーゲンセールになったのではないでしょうか。
そんなジョッキー心理を逆手にとって、見事な戦略力を示したのがルメール騎手ではないでしょうか。
月曜の最終レースは、逃げ先行馬が揃って先行激化が予想されたのですが、風の影響によるジョッキーの意識まで考えると、競り合ってまで先手を主張するのは得策ではないと考えていてもおかしくありません。
そういう状況を完全に読み切ってルメール騎手は、ステルディマーレで好スタートを決めると迷わずハナを奪ったのです。一旦ハナに立ってしまえば競りかける馬はおらず、あとはマイペースに持ち込んで、楽々押し切りました。これは騎手心理まで読み切ったルメール騎手の好騎乗ではないでしょうか。
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樋野竜司
HINO RYUJI
1973年生まれ。「競馬最強の法則」02年11月号巻頭特集「TVパドック馬券術」でデビュー。
斬新な馬券術を次々に発表している人気競馬ライター。いち早く騎手の「政治力」に着目し、馬券術にまで洗練させた話題作「政治騎手(㏍ベストセラーズ刊)」で競馬サークルに衝撃を与えている。