第91回のダービーを制したのは、8番人気のダノンデサイルに騎乗した横山典騎手でした。
今回のダービー制覇は、横山典騎手の騎手哲学が詰まっていたと思うので、それを振り返ってみたいと思います。
勝利のポイントをまとめるなら、以下の2点に集約されるのではないでしょうか。
・レースは道中何もしない
・皐月賞も除外で疲労もない
レースは、好スタートからハナも奪うかの勢いで馬を出していきました。外で好スタートを決めたシュガークンが外から並びかけると絶対にハナは譲らないと徹底抗戦の構えを見せます。この動きを見て武豊騎手がハナを奪うことを諦めたと思うのですが、さらに外から岩田騎手が騎乗したエコロヴァルツがハナを伺うと、あっさり引いて前に入れたのです。この序盤の攻防で勝負を決めたといっても過言ではありません。
1コーナーで馬をなだめて折り合いをつけると、あとは好位のインで脚を溜めるだけの全くロスの生じないレースが出来たからです。
横山典騎手の動きによって外の2番手を選択することになった武豊騎手のシュガークンは逃げたエコロヴァルツをマークしつつ、後ろにいる1番人気のジャスティンミラノのプレッシャーをしのぎつつ、さらに4角手前で一気にポジションを上げ先頭を奪いに来た池添騎手のサンライズアースのマクリにも対応しなければなりませんでした。その間、じっとインで前の攻防を見ているだけでよかったので、直線にたっぷり余力を残すことができたと思うのです。
そして、直線前を走るエコロヴァルツの岩田騎手が左ムチを入れた瞬間を狙って(馬が内に刺さって進路がなくなる可能性が低いので)インから抜け出し、33.5秒の上がりで突き抜けたのです。
次に、皐月賞の除外についても触れなければなりません。
勝利ジョッキーインタビューで「大事にしていれば、馬はちゃんと応えてくれる」という名言が飛び出したのですが、これは昔から横山典騎手が徹底していることです。だからデキの無い馬に無理を強いる騎乗はしません。
皐月賞の跛行も、多くの関係者の晴れ舞台だということを考えると、異変に気付いたとして言い出すのにはかなりの勇気がいると思うし。それを見逃さず、馬に無理な負担を掛けなかった英断がダービー制覇につながったともいえるでしょう。
横山典騎手がダービーで騎乗して最後方で何もせず大差のシンガリ負けになってしまったブレイブスマッシュも、横山典騎手の馬を大事にする姿勢からくるもので、その甲斐あって南半球で種牡馬として成功を収めることができたのかもしれません。
当時はその騎乗ぶりに対し、否定的な意見が多かったのですが、いまならこれも横山典騎手の英断と賞賛されるのではないでしょうか。
今回のダービー制覇は馬を大事する横山典騎手の姿勢が実を結んだものだと思うのです。
「競馬成駿」はコチラ!
樋野竜司
HINO RYUJI
1973年生まれ。「競馬最強の法則」02年11月号巻頭特集「TVパドック馬券術」でデビュー。
斬新な馬券術を次々に発表している人気競馬ライター。いち早く騎手の「政治力」に着目し、馬券術にまで洗練させた話題作「政治騎手(㏍ベストセラーズ刊)」で競馬サークルに衝撃を与えている。