先週のプロキオンステークスは、単勝1.7倍という圧倒的な人気を集めたヤマニンウルスの圧勝劇でした。
これでデビューから無傷の5連勝で、重賞タイトルを手にしました。
戦前、コンビを組む武豊騎手は同馬のことを「和製フライトライン」と形容。フライトラインは一昨年のBCクラシックを圧勝し6戦6勝という戦績でキャリアを終えたアメリカの名馬で、ヤマニンウルスもそれくらいのポテンシャルがあるといいたかったのでしょう。
それを理解しながらも、筆者は馬券で重い印を打つことができませんでした。しかも、思い切って消すというわけではなく、4、5番手の評価という煮え切らない印しか打てませんでした。
よく、「勝つ確率が最も高いなら本命を打つべきとか、本命にしないなら無印にしろ」といった声を耳にするのですが、それは姿勢としてはかっこいいとはいえ、馬券理論的には間違っていると思うので、なかなかそういう印は打てません。その理由を、期待値という概念を用いて考えてみたいと思います。
期待値とは、ある賭けの平均的な利益または損失を表す指標です。馬券の場合、「オッズ × 的中確率」で計算されます。理論上、期待値が1を超えれば長期的には利益が出る計算になります。
ヤマニンウルスの場合、仮に勝率を50%と設定してみましょう。これは実際にはかなり高い勝率ですが、それでも計算してみると:
1.7(単勝オッズ) × 0.5(勝率) = 0.85
となり、期待値は1を下回ります。つまり、純粋に数字だけを見れば、この馬への投資は長期的には赤字になる可能性が高いということです。
しかし、ここで難しいのは、だからといってこの馬を「消す」(買わない)という選択も簡単ではないということです。
50%という高い勝率を仮定している以上、レースでは上位に来る可能性が非常に高いことになります。他馬と比較しても体感的な期待値がヤマニンウルスよりも低い馬が多くいるので、そういう馬を敢えて狙う理由もないからです。
結果として、こういった人気馬は「上位評価はできないが、かといって消すのも難しい」というジレンマを生み出します。
レースは完勝でしたが、いい位置を獲れず砂を被ったり揉まれたりして本来の能力を発揮できないケースもあったと思うので、期待値的な発想が大事なのは変わりません。そういう部分を一切感じさせず、涼しい顔で結果を出す武豊騎手の腕前がそれを上回っただけで、決して楽な競馬ではなかったと思っています。
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樋野竜司
HINO RYUJI
1973年生まれ。「競馬最強の法則」02年11月号巻頭特集「TVパドック馬券術」でデビュー。
斬新な馬券術を次々に発表している人気競馬ライター。いち早く騎手の「政治力」に着目し、馬券術にまで洗練させた話題作「政治騎手(㏍ベストセラーズ刊)」で競馬サークルに衝撃を与えている。