先週は、語るに値するレースがなかったような気がするので、古い話をしてみたいと思います(笑)
今年の天皇賞・春でのことです。シャケトラに騎乗した田辺騎手が(スタートして)インから好位のポジションを狙いに行ったところ、馬が行く気になってしまい折り合いを欠くようなシーンがありました。前にいたはずのキタサンブラックが外に出していたため、壁を作ることができなかったことが原因でした。
これは武豊騎手が田辺騎手にイジワルをするために取った作戦ではないかといわれていましたが、(その狙いもあったのかもしれませんが)本当の狙いは別のところにあったと思っています。
包まれて身動きがとれなくなることを避けるために、あらかじめ外に出していたというのが武豊騎手の本当の狙いに近いのではないでしょうか。
大逃げを決めたヤマカツライデンに行かせて番手に収まるというのは、当初の作戦通りだったと思うのですが、最初からインの2番手と決めつけて乗っていると外からフタをされる恐れがあったからです。
実際、岩田騎手のアドマイヤデウスが「逃げるつもりだった」とレース後に証言しており、武豊騎手にガンを飛ばされて思いとどまったとも語っています。何も考えずにインの2番手につけていたら、岩田騎手に外からフタをされた可能性もあったわけで、パトロールビデオを見ても、武豊騎手がそれを明確に嫌っているのがみてとれます。
出脚が一息だった大阪杯でも、武豊騎手は1周目の直線で外に行く動きを見せています。マルターズアポジーとロードヴァンドールに行かせるのはいいとしても、横山典騎手のサクラアンプルールまで先行の意思を見せており、サクラにフタをされるのを嫌っての動きのように見えます。
スタートが決まって楽に先手が奪えたように見えたジャパンCでも、スタートして外に進路をとっています。外から勢いをつけて競りかけてくるような馬がいるかもしれないと想定いたのかもしれません。結果は、競りかけられることなく、マイペースに持ち込んで逃げ切ったわけですが、GⅠレースともなると何が起こるかはわかりません、いろいろな可能性を考えながらレースをしているのでしょう。
「スタートが決まればいいなあ」
「ダッシュもついてスッとハナに立てるといいなあ」
「そして誰にも競りかけられることなくマイペースで逃げられればいいなあ」
なんてふんわりとしたイメージで騎乗しているわけではなく、相手もあることなので当初のイメージ通りにはいかないことだらけなのだと思います。ただ、それに備えて常に先手を打っている。
武豊騎手をはじめとした、ジョッキーの皆さんをリスペクトして止まないのは、そこまでレースのことを考えて騎乗されているからなんです。
樋野竜司
1973年生まれ。「競馬最強の法則」02年11月号巻頭特集「TVパドック馬券術」でデビュー。
斬新な馬券術を次々に発表している人気競馬ライター。いち早く騎手の「政治力」に着目し、馬券術にまで洗練させた話題作「政治騎手(㏍ベストセラーズ刊)」で競馬サークルに衝撃を与えている。
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樋野竜司
HINO RYUJI
1973年生まれ。「競馬最強の法則」02年11月号巻頭特集「TVパドック馬券術」でデビュー。
斬新な馬券術を次々に発表している人気競馬ライター。いち早く騎手の「政治力」に着目し、馬券術にまで洗練させた話題作「政治騎手(㏍ベストセラーズ刊)」で競馬サークルに衝撃を与えている。