天皇賞秋は伏兵スピルバーグ(5番人気)が直線一気に突き抜けた。これで秋天は3年連続で単勝5番人気馬の優勝。秋のGⅠロードに凱旋門賞が組み込まれた影響は否定できない。さらに今秋に限っていえば、スプリンターズSに始まって4週連続、初重賞勝ちがGⅠという不思議な結果が続いている。まさに新旧交代期の真っ只中にあるのか。
いや、むしろ逆かも知れない。本来、心身ともに旬を迎えるはずの現4歳勢があまりに低調なのだ。皐月馬のロゴタイプ、菊花ワンツーのエピファネイア、サトノノブレス然り。振り返ればトリッキーな臨戦でキズナがダービーをさらっていったのも世代の貧しさかも知れない。この4歳世代に3歳世代も五十歩百歩。世代トップのイスラボニータが、勝って下さいと言わんばかりの展開で3着に沈んだのだ。
この3・4歳世代に比べれば、ジャスタウェイ、ゴールドシップ、ジェンティルドンナ、さらには取りこぼしたとはいえフェノーメノを擁する現5歳世代が断然。言うなら逆に新旧交代がまったく進んでいない。初重賞VがGⅠというスピルバーグもやはり5歳。3歳時はクラシックに間に合わなかった馬であり、これ一つをみても5歳世代の奥がどれくらい深く、その層がどれくらい厚いのかを語っているよう。
さて、天皇賞秋を振り返ろう。勝ちタイム1分59秒7は雨の影響が残った馬場にしても平凡。同日の1000万(トーセンマタコイヤ)が2分00秒4。であれば1分58秒台は欲しい。前半が60秒7の緩い流れにもかかわらず、後半も59秒0にとどまった。正直、GⅢに毛がはえたレベル。それでも凱旋門賞が路線に組み込まれ、さらにJCとのあまりに大きな賞金格差を考えると、今後もこんなレベルに落ち着く可能性は高い。
スピルバーグの勝因は非凡な決め手。今回も最速33秒7の鋭い決め手を発揮した。そもそも秋の天皇賞は最速上がりをマークした馬がもぎ取っていくレース。ソフトな馬場、緩い流れの中でもスピルバーグが勝ち切れたのは、重に減点がなく、ベストともいえるスローからの決め手比べとなったことだろう。因みに毎日王冠組はこれで9年連続連対。天皇賞を勝たんとすればいかに毎日王冠を叩くことが急務か。改めて9年連続が証明している。
2着にジェンティルドンナ。昨年を考えると今年もまた上手にJCの下準備を整えた格好だが、年々、そのパワーが衰えつつあるのも否定できない。最後にイスラボニータを振り切ったのはJC2勝馬の貫禄であり、事実上はイスラとの枠順の差であった。叩き台云々は別にして、勝たなければならない枠順と流れではあった。
本命に推したフェノーメノ(14着)の敗因は緩い馬場。昨年の宝塚と同様、少しでも下が緩いとまったく動けない。ただし、それは敗因の枝葉。一言でいうなら「仏作って魂入れず」であり、見事なまでに外見は整っていたものの中身はサッパリであったことに尽きる。もちろん、これはJCの叩き台としたからではない。天皇賞を最上とする「憂国の士」である戸田師がJCとの賞金格差に踊らされるはずはない。むしろ逆に馬を可愛がり過ぎたのではなかろうか。
本誌で柴田卓哉が、一週前追いがいつものCWではなくポリトラックであったことを指摘していた。荒れた馬場を考慮してのポリ選択ではあったが、目一杯の負荷がかけられなかったのもまた事実。外面を造るだけにとどまった。結果として馬場とこういう甘い仕上げが惨敗を招くことになったのではないか。ただ、次のJCがパンパンの良であれば、コロッと変わる可能性はある。まさに今回の天皇賞で魂が入ったからだ。
他ではJCの要注馬にデニムアンドルビー(7着)。コチラは内枠が災いした。いつも通り外枠から直線一気にかける競馬であればスピルバーグと併せ馬で伸びてきたのではないか。馬ごみを捌くのにあまりに苦労していた。

清水成駿
1948年東京都生まれ。明治学院大学卒業と同時に、 競馬専門紙「1馬」に入社。旧東京系のトラックマンを担当。 そこで馬を見る類まれな才能を高く評価され、 20代の若さで競馬評論家となり、35歳と異例の速さで取締役編集局長に就任。競馬の見方を180度変える斬新な推理は、旧体質の予想界に新風を吹き込み、高配当を次々に的中。予想欄に一人ポツンと打った「孤独の◎」は、ファンの熱烈な支持を集め、 今でも語り継がれている「穴の清水」の代名詞となる。