多士済々といったマイルCS、先週の牝馬GⅠと同様に上位に絡みそうな馬が十指に余るほどの混戦で食指をそそられる。
GⅠ連勝を視野に入れているのがレッドファルクスで、追い切りはDコースでの5Fスタート。1週前にウッドでの6F追いで十分な負荷をかけているから、追走して外にコースを取ったとはいえ、中身はしまい重点。しかし、白い馬体を躍動させての3馬身先着で充実ぶりをアピール。スプリンターズSでは前年よりズブさを感じたし、安田記念で際どい2着もあってマイルに関しては底を見せていない。首位争いに加わるのは間違いないだろう。
唯、同じGⅠ馬ということならイスラボニータに一日の長があるのでは。3歳秋以来の勝利が当条件の4月でエアスピネルを下した。その勢いにブレーキがかかった安田記念にしても直線で窮屈になったのが致命的。何より、昨年のシルバーメダリスト。以前と異なり、直前で強く追わなくなったという点は再三指摘してきた通り。今回も同様のつもりであっただろうが、3F地点でも1秒3前に行くパートナーに内から鋭く迫っての同時入線で、楽な手応えのままで5F66秒8。自然に出た好時計で究極の仕上げと捉えて良い。
富士Sでは案外だったグランシルクが持ち直してきた。無駄を全て削ぎ落としたからこそ生まれる瞬発力、見た目は速そうに感じなくても1F12秒3で抜け出しての2馬身先着はそれ故。しかも、輸送を控えていても前週に続く併せ馬消化に並々ならぬ意欲を感じるのだ。京都は初になる上に、坂の下りを難なくこなせそうな走りでないのは承知。それでも目下のデキに敬意を表して何とか印を回したいものだ。
最大の惑星がマルターズアポジー。京成杯AHは58キロのハンデ以上に関屋記念の反動で始動が遅れたことが応えた。今回は違う。美浦への帰厩直後から筋骨隆々、内に籠るパワーからして桁違い。実際、前2週までに3頭併せを続けて消化。痺れるような手応えで外ラチに触れんばかりのコース取りでも5F66秒9だった8日の動きには凄味さえ感じた。
5Fの入りが16秒台とユッタリだった最終追いにしてもラストの反応は目論見通り。思えば、ローカルで後続に影を踏ませなかった際は間隔を十分に取っての臨戦だったし、そこでの強さはフラットなコースだったからこそ。従って、京都が合わぬわけない上に、同じ逃げるにしても絶妙なタイミングでリードを広げられるようになったのが近走。番狂わせがあって良い。
他に西下する中で有力視されているのが木村厩舎の2騎。日曜10Rのフローレスマジックであり、日曜12Rのゴルゴバローズ。互いをパートナーにして水曜に最終調整を済ませたがいずれもキリリとした馬体、推進力もあって仕上りとしては及第点。下馬評通りで良いだろう。けれども、いずれも人気だけにチョイスは他から。
そのゴルゴバローズがエントリーしている西陣Sはスミレ。復帰後の2走はチグハグなレース続きだが、小気味良い動きは相変わらず。加えて、内にもぐり込んだ最終追いでは4Fからが15秒に近いラップ。上手く制御が利いた上でのラストは全身を大きく使ったアクションで柔らか味が増した。現級勝ちのある条件でルメールへの手替わり。狙わぬ手はない。
土曜はOPのアンドロメダS。前走の府中が惜敗だったストロングタイタンの一本被り。コース替りで盤石にもなるのだからそれに逆らうつもりはない。唯、他はどんぐりの背比べでブラックバゴを相手本線に。先週の福島記念をスキップしての臨戦。実質の追い切りと言えたその週には長目から行って半馬身遅れ。が、1Fの地点でも敢えて相手を前に置いてそこから猛然とスパート。矢のような伸びを見せたのだ。持ち前の豪快なアクションに磨きがかかった模様。
府中は少頭数ながら質の高い1戦となる東スポ杯がメイン。追えば追うだけ伸びる、2戦2勝のワグネリアンに瑕疵はない。雨予報の土曜ではあるが、前走の不良馬場でも大外から次元の違う脚を見せつけたほど。悪条件をモノともしないタフな精神を持ち合わせてもいる。唯、それに肩を並べる器が堀厩舎のルーカス。
言わずと知れたモーリスの下で、その血筋を十分に感じさせる麗しい立ち姿。しかも、スピードに乗ると大きく体を使ってスケールの大きさを実感させる。大きく追走した分、脚色には思いのほか余裕がなかったものの、中身の上では真ん中の準OPを遥かに凌いだのが最終追い。十分に馬を追い込んでいる過程も加わる。もう少しトモに力をつけないと、といった面があって緩さが残るのは確か。それでも主役の座が相応しい。
日曜9Rの赤松賞は牝馬限定の2歳500万下。キャリアを問わずとも突破できる時期でもある。ここはマウレア。渋り気味の馬場だった前走、1分37秒3でも納得が行く時計だし、抜群の切れで着差以上に余裕があった点でも相当な奥行き。加えて、この中間は更に稽古の質をUPさせたにも関わらず、そのハードルを難なくクリアー。行き出しが6Fだった直前、OPのベストマッチョが一杯になるのを尻目に楽々と併入、その手応えで6F82秒6をマークできたのだから並大抵でない。今回はあくまでもステップ。
最終週を迎えるのが裏開催の福島。ここでは土曜メインのヒメタチバナをまずは推奨。水曜のラッシュ時にウッドでの併せ馬。相手が2歳だけに先着して当然だし、4F54秒1も目立つ数字ではない。しかし、牝馬ながら叩き上げといったイメージ通りの進境ぶり。最後まで手を緩めぬ調整を2週にわたって繰り返した成果で前走時より反応が鋭くなったのだ。その魚沼特別は上がりの速い決着で同馬にとって追い風とは言えない中でも最後まで2着争い加われた。2600は初になるものの、スタミナが身上でプラスに働くのは間違いない。52キロのハンデも魅力。
同じく牝馬のステイウィズアンナ(日曜9R)はここ目標に万全の仕上がり。というより、馬体の維持が絶えず課題になるデリケートな一面を持つ。とはいえ、今回は十分に間隔を開けて丸味帯びた体つき。向正出しだったウッドでは4F過ぎからペースUPと鞍上の意に沿う形だった分、直線に向いても安定した走りに終始できた。精神面でも以前とは違う。
最後は土曜5Rの新馬、尾関厩舎のロサグラウカ。こちらも牝馬らしく仕上り早。というだけでなく、気品を感じさせるシルエットで透けるような皮膚の薄さが血筋の裏づけ。加えて、質の高い併せ馬を繰り返して捌きがシャープに。仮に少しでも追ったならどこまで弾けるのか、といった雰囲気がここ2週なのだ。少々トモが薄いといった点で成長待ちの感は否めぬがそれを補って余りあるセンスの持ち主。

柴田卓哉
学生時代は船橋競馬場で誘導馬に騎乗。競馬専門紙『1馬』在籍時には、 「馬に乗れる&話せるトラックマン」として名を馳せる。 30年以上にも渡りトレセンに通い詰め、 現在も美浦スタンドでストップ・ウオッチを押し続ける。 馬の好不調を見抜く眼に、清水成駿も厚い信頼を寄せる調教の鬼。 また東西問わずトラックマン仲間たちとの交友関係も広く、トレセン内外の裏情報にも強い事情通。

柴田卓哉
SHIBATA TAKUYA
学生時代は船橋競馬場で誘導馬に騎乗。競馬専門紙『1馬』在籍時には、 「馬に乗れる&話せるトラックマン」として名を馳せる。 30年以上にも渡りトレセンに通い詰め、 現在も美浦スタンドでストップ・ウオッチを押し続ける。 馬の好不調を見抜く眼に、清水成駿も厚い信頼を寄せる調教の鬼。 また東西問わずトラックマン仲間たちとの交友関係も広く、トレセン内外の裏情報にも強い事情通。