開催が替っての2週目、東西でのTRに注目が集まる。特に、中山の弥生賞は朝日杯の覇者ダノンプレミアムを筆頭に豪華なメンバー。唯、その2歳王者はマイルの持ち時計が示す通り、スピードに秀でるタイプ。類稀な身体能力があれば距離に対する融通性も生まれてこようが、目標になる脚質や前向きな気性がネックになって不思議ない。
無傷の3連勝で臨むワグネリアンは底知れぬ。少々華奢なイメージを拭えないものの、充電してここに臨めたように、ゆとりのあるローテーションが成長を促進させたに違いない。中山の急坂が似合う感じではないが、この世代をリードする器。勿論、同じ舞台だった暮れのGⅠで惜しくも差されたサンリヴァルも。仕掛けのタイミングというデリケートな部分が左右した結果と言えるし、そこで厳しい流れを経験したアドバンテージは大きい。
以上で三つ巴を形成すると考えるのが妥当だが、敢えてオブセッション。何せ、暮れの阪神ではエンジンの違いを見せつける1分45秒6のレコード。しかも、コースロスなど考えぬ問答無用といったレース運びでも差は開く一方だったから凄い。初の長距離輸送で-6キロの馬体減。目論見通りではなかったわけだ。
その後はここ1本に絞っての調整で始動も早かった。驚くような時計で攻める厩舎ではない分、最終追いでも5F69秒0に過ぎぬ。しかし、ラスト1F地点でも先行する古馬を窺う余裕。そこから鞍上に促されると外ラチ沿いを豪快なアクションで駆け抜ける。ギアUPしてからのフォームがひと際美しいし、矢のような速さ。確かに、底力の問われる広いコースでこそだが、追えば追うだけ伸びる馬だけに1F延長で更に。そのスケールはキャリア不足を補って余りあるほどで、昨年のレイデオロ以上と目している馬。試金石というより、ここで主役の座に躍り出る。
土曜・阪神のチューリップ賞は暮れの阪神JFの再戦。そこでの上位3頭が顔を揃えたからだ。確かに、正攻法で進められる上に、GⅠを含め3連勝というラッキーライラックには一日の長があるだろう。唯、中1週のタイトなローテーションながらそれに0秒1差と食い下がったリリーノーブルには上積みを見込んで良いし、マウレアも女王を脅かす存在。
今季初戦のクイーンCは案外な5着だったが、1000m通過57秒8とそれまでに経験したことないペースの中、逃げ馬を深追いする形が応えた。また、前回の最終追いが古馬OPに対しての‘おいでおいで’だった反面、乗り出しが早くてもビッシリ追う場面がなかったにも関わらず増減なし。GⅠを使った反動から立て直すのは容易でなかったということ。今回は更に切れのある動きを披露していた中間に加え、直前には3頭併せでゴールまでシッカリ追っての先着と覚醒した印象。各馬が牽制し合って決め手比べになる展開が大きなフォローにもなる。
中山に戻って土曜・オーシャンSを。目下のスプリント路線を象徴するような大混戦で馬券的な妙味は殊の外大きい。まずは叩いて一変したキングハート。3歳夏からコンスタントに使われていた分、オーバーホールが必要な状況で、復帰に向けては坂路主体と今までにないパターン。従って、全体的に緩かったのは仕方ない前走なのだ。対して、併走馬をチギった1週前で本来の身のこなしが蘇った上に、最終追いでも5F67秒7を余裕綽々でマークと復活の予感。平坦ベストでも俎上には是非載せておきたい。
ひと押しが足りない憾みはあるものの、稽古で目立ったナックビーナスも取り上げるべきだろう。前2頭を追いかけての直線では重心を低くした見事なフォームではち切れんばかりの馬体。実戦で気を抜く癖が消えない分、乗り方が難しくなるが昨年の2着馬。当時よりデキは良いだけに首位争いに加わると考えるのが妥当。
あとはリエノテソーロ。NHKマイルでの2着を考えると前走は物足りない。唯、ペースを落として逃げた故に、主導権を握れなかった。昨春、アネモネSでタフな流れに巻き込まれながら二枚腰を発揮したように、他が苦しくなる状況で持ち味が生きるし、本質はスプリンター。1週前の6F追いはラストまで安定したフォームだったし、4Fスタートの直前には1F12秒3と糸を引くような伸びで仕上がり万全。路線転換で頂点を視野に入れる立ち位置を得よう。
土曜・上総Sは準OPのハンデ戦。1000万下で2着を2秒近く突き放した圧勝、1分51秒9の時計にも文句がつけられぬハイランドピークが支持を集める。唯、昇級初戦での56キロは少々見込まれたし、持ち味を生かすにはハイピッチでレースを引っ張る必要あり、と戦法が限られている。
それならばロードシャリオ。距離に限界があった以前とは別馬で2100さえこなしたのが前走。この舞台であれば逃げ馬を潰しに行った分、出し抜けを食った招福Sに高い評価を与えて良い。追い切りは正面からウッド入りと高柳厩舎には珍しいパターンで、それだけ馬を追い込めたということ。結果は3馬身遅れだったが調教駆けしない馬が大きく追走したのであれば、むしろ煙幕。これで評価が下がるようなら更に太く買える。
ネイビーブルーは昇級即通用。勿論、長く脚を使える強味がある分、1800でも距離不足といった側面はある。しかし、以前より捌きが軽やかになったのは均整が取れた故。昨春、1000万下の当条件で流れに乗り切れなかった時とは別馬で、機敏性が出たのは前走が示す通り。まして、OP相手の追い切りでも一歩も譲らなかったほどで一段と良化。展開の助けがあれば突き抜けるまである。
日曜・スピカSはレッドローゼス。ダービーTR2着を思えば昨秋は案外。少々の無理で頭が高くなるフォームをウィークポイントと捉えて良いからだ。つまり、前走で勝ち上がったとはいえ、2000は微妙に長いわけ。今回、相手強化は仕方ないにしても1F短縮ならロングスパートが可能だし、一息入れて体の厚みが増した点でも相当な上積み。実際、ロジチャリス相手の追い切りでは内目とはいえ、5F64秒5で2馬身のビハインドをあっさりクリアーしての併入。3Fに至っては36秒3と破格でひと皮剥けた。
最後に未勝利戦から。昨夏の北海道以来になるカタナを推奨。デビューが早かった反面、精神面の脆弱さは如何ともし難い上に、トモが薄くて成長途上。従って、ここに至るほどの稽古は望むべくもなく、振るわなかったとて悲観材料にはならぬ。対して、今回は5Fからビッシリ追った1週前を含め、密度が格段にUP。後肢が深く入り込むフォームに様変わりした分、推進力が生半可でない。初コース、初になるマイルも気にならぬ。
柴田卓哉
学生時代は船橋競馬場で誘導馬に騎乗。競馬専門紙『1馬』在籍時には、 「馬に乗れる&話せるトラックマン」として名を馳せる。 30年以上にも渡りトレセンに通い詰め、 現在も美浦スタンドでストップ・ウオッチを押し続ける。 馬の好不調を見抜く眼に、清水成駿も厚い信頼を寄せる調教の鬼。 また東西問わずトラックマン仲間たちとの交友関係も広く、トレセン内外の裏情報にも強い事情通。
柴田卓哉
SHIBATA TAKUYA
学生時代は船橋競馬場で誘導馬に騎乗。競馬専門紙『1馬』在籍時には、 「馬に乗れる&話せるトラックマン」として名を馳せる。 30年以上にも渡りトレセンに通い詰め、 現在も美浦スタンドでストップ・ウオッチを押し続ける。 馬の好不調を見抜く眼に、清水成駿も厚い信頼を寄せる調教の鬼。 また東西問わずトラックマン仲間たちとの交友関係も広く、トレセン内外の裏情報にも強い事情通。