無傷で臨むサートゥルナーリアのGⅠ制覇は暮れの当条件。馬の間を割る勝負根性を見せつけて着差以上の強さだったから、成長余地は残していても他を圧倒するレベルにある。問題は間隔を開けた点。目一杯でなくてもあっさり通過して不思議ないが、隙がないこともない。
関東ではまずニシノデイジー。ホープフルSでは動くに動けぬ位置に嵌って脚を余したからだ。前哨戦にしても雨に祟られた馬場で早目に前を捕らに行く競馬ながら0秒4差3着。相変わらず見栄えのする馬体で豊富な筋肉を余すことなく駆使したフォームに魅せられる。今回、ラスト2週は単走だったが、勝浦とのコンタクトがより密になって定石通りにペースUP`した結果、気合いをつける程度でもラスト12秒7とパワフルだったのが最終追い。GⅠで再び上位を窺えるだけのデキにある。
その弥生賞、1番人気に反する7着だったのがラストドラフト。急遽の乗り替りと重い馬場、掛かり気味の道中とエクスキューズは成り立つ。そのダメージを感じさせないのが先週までの過程で、シュタルケを背にした6F追いは余力残しでの先着。唯、直前は5Fで1秒追走したにしてもゴールでは追いつけずに1馬身遅れを取った。確かに、織り込み済みではあるし、軟弱なウッドでの5F67秒3であれば及第点だが、劇的な変化はない。他との比較でメッキが剥げつつあるといった印象も。
それならばダノンキングリー。完成度の高さを如実に物語る絶妙なバランスとシャープなライン、小気味良いフットワークにレベルのほどが表れている。加えて、最後の最後でポリというパターン。勝利の方程式と言って良いだろう。
僚馬2頭を前に行かして結局は単走の形だったが、ゴールまでリズムを崩すことがなかった上に、全身がバネといった風情での5F64秒7。ここに至る過程で十分な負荷をかけられたことを物語っているわけだ。胴の詰まった体型で本質はマイラーだし、共同通信杯で上がり32秒9と切れに切れた反面、前半で追走に苦労したシーンではどうか?それを打ち消すだけの進境度に賭ける手もあるが…
しかし、それを問うならシュヴァルツリーゼでは。未だキャリア2戦で、調教でも合図に即反応とはいかないし、緩急に晒されると走りが乱れるシーンが。けれども、その段階にありながら弥生賞で2着に突っ込めたほど。しかも、2月を目標に乗り込んでいたが、一頓挫あっての再仕上げだったのだ。
そこからのTR激走となって反動が心配されたが、それは杞憂。現に、1週前の5F追いではダイナミックなフォームで駆け抜けた。また、木曜の厩舎2組目だった直前は何と3頭併せ。4F54秒0のしまい重点で直線では古馬2頭の間を割る形でもリズムを崩さずに柔軟性も満点。勿論、惚れ惚れするような馬体全てに実が入っているとは言えないが、スケールを実感させるラストの12秒4。乱戦になれば急浮上しても納得できるレベルと決めつけて美浦での1番手としたい。
3歳戦で注目に値するのが阪神・アーリントンC。NHKマイルCへの道標となり得るレースで美浦勢からはまずフォッサマグマを最右翼に挙げるのが妥当だろう。2勝目マークの1分34秒5にしても時計を詰める余地を残した上に、5Fからの併せ馬2本で順調そのものの中間が軌道に載ったことを示している。離されたとはいえ、平常心を欠いた共同通信杯でも4着。1F長いと実感させた現状で大きく崩れなかったのだから評価を落とす必要はない上に、身体能力の高さを存分にアピールした追い切りと青写真通り。
しかし、敢えてニシノカツナリ。栗東入りしての追い切りに並々ならぬ意欲が表れているし、1週前の南馬場では持ち前の豪快な捌きを披露。反面、器用さに欠けるから、スプリングSで伸び悩んだ点には目を瞑れるわけ。コーナー2回のシンプルな設定なら今一度追いかける価値あり。
2週目を迎える福島は日曜・福島民報杯がメイン。トップハンデでも56キロということが、‘帯に短し…’を物語っている。マウントG、ドレッドNらが上位に絡むのは確実だろうが、復活の予感漂わせるミライヘノツバサが面白い。最終追いこそ坂路での53秒6と、ルーティーンと呼べそうなタイムだったが、それまでがポリと調整パターンを変えてきた。実際、勢いのあった一昨年ほどはないにしても、前肢をシッカリと伸ばしたフォームで柔らか味が増した。元々、GⅡ制覇にリーチがかかっていたほどの休養前があって力量面は申し分なし。それだけのレベルにあった馬の56キロは如何にも有利だし、一度走って着外に終わった当コースにしても戦法が確立されていなかった時期。度外視して良い。
あとはマイネルサージュ。白富士S→中山記念経由は昨年と同じパターンで勝負気配が漂う。現に、少々ギスギスした見た目だった前走を叩いて胸前に力が籠った模様。だからこそ、追い切りは道中から見た目にスピード感があった上に、ラストも持ったままでの12秒4と段違いの鋭さ。ミライヘノツバサがピッチを上げた場合、最後の最後で美味しいところを持って行くのはこれ。
ここからは1000万下にスポットを当てる。福島からは日曜の奥の細道特別で、ここはミルトプレスト。不振に終わった小倉と裏腹に、6Fから攻めに攻めた前走でトップフォームに。それはスタミナを生かす先行態勢に出られたことからも明白で、ひと押しが足りなかったのは、勝ち馬が強過ぎた故。中1週だけにしまい重点は納得できるし、馬場が荒れた時間帯ながら鞍上のアクションに呼応する形での4F54秒0。バランスを保った走りに終始できたように、定石通りの良化ぶりで今度こそ。
中山は土曜の利根川特別。プレシャスリーフの前走は中途半端な位置取りで外に持ち出した時既に遅し。能力ではなかったのだ。現状では距離があっての追走がベターだが当コースでの勝ち鞍もあるほどで、要するに運び方次第。更に良いのは、3頭併せを繰り返すことによって馬体のハリが違ってきたこと。直前こそ控えた分、1馬身遅れを取ったが、先週の先着は豪快、それもラスト12秒2と冴えに冴えた。気温の上昇に比例するような過程を踏んで主役は譲れぬところ。
けれども、ここにはもう1頭の◎候補が。それは、今回が初ダートになるホウオウパフューム。まだ全体的に緩かった復帰戦を叩いてアクセントの利いた体つきに。3頭併せで内の3歳に劣ったが、こちらも余力残しだったし、5Fの入りが遅かっただけに速い脚がない分だったのだ。つまり、伸び悩んでいたのは適性の問題。思えば、同馬とハイライトとも言える3歳初頭の中山芝2000ではロングスパートで他を封じた。矯める競馬では二束三文といった面が見え隠れしているこれまでのキャリアと、牝馬らしからぬパワフルな身のこなし。転向をきっかけにして再び高みを目指す。

柴田卓哉
SHIBATA TAKUYA
学生時代は船橋競馬場で誘導馬に騎乗。競馬専門紙『1馬』在籍時には、 「馬に乗れる&話せるトラックマン」として名を馳せる。 30年以上にも渡りトレセンに通い詰め、 現在も美浦スタンドでストップ・ウオッチを押し続ける。 馬の好不調を見抜く眼に、清水成駿も厚い信頼を寄せる調教の鬼。 また東西問わずトラックマン仲間たちとの交友関係も広く、トレセン内外の裏情報にも強い事情通。