3歳牝馬の三冠目となる秋華賞の当日、幸いにも台風の影響を避けられそうなのが何より。そして、TR2戦を見る限り、春からの勢力図に劇的な変化はなさそう。特に、ダノンファンタジーの前哨戦は圧巻であった。
好発から川田に意のままにセーブできた道中、直線で外に持ち出すといった正攻法。一瞬届かないと思わせたシーンが10.5秒を刻んだ地点だったから、見た目ほど反応が鈍かったわけではなく、力で捻じ伏せた1.44.4秒であった。
けれども、カレンブーケドールこそ主役を張るに足る存在ほどではないか。
何せ、オークスではダノンFを負かしている。タイトに進む中、一旦はGⅠを手中にと思わせた早目先頭、出し抜けを食ったとの見方もできるわけ。
確かに、紫苑Sは取りこぼした。が、既に賞金面ではクリアーしていただけにTR仕様。帰厩は早かった反面、猛暑の時期で実質はラスト2週のみに過ぎずに体のバランスが悪かった。結果、躓き気味のスタート、鞍上に反抗しつつといったシーンが3角過ぎまで続いたとなれば、僅差3着は見上げたもの。
逆に、前走後の1本目からして坂路53.1秒をマークできたこと自体、スイッチが入ったと見做せるし、その後も鍛錬を重ねてきた。現に、透けるような皮膚で無駄を削ぎ落としたといったイメージ、ピークに達したと実感できるのだ。右回りのコーナー4回、2000mを経験しての上積みは計り知れぬ。
その紫苑Sを制したパッシングスルーが最大の惑星。
こちらも大外枠ながら大本命をマークして進み、ラストのラストで先んじた。唯、夏場にも関わらず、美浦でシッカリと時間をかけたのとは裏腹に、今回は外厩頼み。ほぼ直接として良い栗東入りがポイントで変則的な過程がネックになるような気が…。
それならばコントラチェック。
間隔を開けた臨んだオークスでもマイナス体重だったようにデリケート過ぎる面が足枷となったのが春。加えて、ハナを叩かれるといった不測の事態にも遭遇と、そこでの1.7秒差にはエクスキューズが成り立つ。対して、ドッシリと構えているリラックスした雰囲気。ひと夏超えて大人びた模様だし、持ち前のスピードを生かすには格好の舞台となる。
素質だけを問えばここに入ってもヒケを取らぬサトノダムゼル。
3戦3勝でいずれも着差こそ僅かだが、前を交わせば事足れり、といったレース振りに非凡さが表れているし、セーブ気味だったDWにしても良質な筋肉を駆使した動き。5F69.7秒といった数字には表れぬ鋭さでとどまるところを知らぬ。けれども、距離、コースともに初で淀みない流れ必至。キャリア不足がモロに応えそうな状況だけに連下が一杯。
同じ堀厩舎での西下ということなら土曜・太秦Sのレピアーウィット。
中距離にシフトチェンジした3月に一変。中山ダ1800mでの好時計勝ちに加え、急がされる条件だった府中マイルでもラスト1Fを残して勝負を決めたほど。パワフルなわりにはトモがついていかないといったウィークポイントを払拭した段階で充電、前後のバランスといった点で申し分のない全体像と更にパワーUPしたのだ。1週前の追走併入でも十分と思えたのに最終終追いでもラスト1Fから気合いをつけて緩めなかった所以。外から被せられると脆い点は陣営も承知。それをカバーするレース運びになろう。
あとは3歳ラインカリーナ。ここ2走で特殊な距離を克服と幅を広げている段階だから混合戦は望むところだし、直線ではパートナーに合わせた形の馬なりながら5F67.7秒の好時計と、成長余地を残しつつも迫力は満点。52キロ、時計勝負の京都が大きなアドバンテージに。
府中のメインは月曜の府中牝馬S。
2歳時のGⅠ制覇後もパフォーマンスを上げてきたラッキーライラックにとっての当距離は格好なだけに、これを巡る争いというのが大まかな様相。となると、マイルとはいえ、安田記念で先着しているプリモシーンにスポットを当てるべき。
中京遠征後にリフレッシュして稽古を重ねてきたから態勢は整っている。水曜の坂路54.6秒が最後ではなく、金曜に軽く流す程度でもそれが追い切りとなる模様。唯、これまでを見る限り、張りつめた体つきだし、DWでの6F追いが実にダイナミック。1800mでも安田記念で生まれた序列を尊重すべきか。
その組からの注目はクロコスミア。
前走が一線級相手の札幌記念で番手確保の道中から0.7秒差。牝馬戦であれば前進必至を考えるのが妥当だし、抑える競馬を覚えてのランクUPと、6歳を迎えても進化を遂げている点が心強い。
逆に、前年度の3着フロンテアクイーンにはどうもピンとこない。
日曜の坂路で1F14.4秒がまずは気懸かり。確かに、木曜の最終追いでは最後尾の内から抜け出してラストも楽なまま11.9秒と良化が窺えた。しかし、先着して当然の2歳相手で直線に向いた時点で前に出ていた。つまり、併せ馬としては噛み合わぬ形だった上に、腹目が薄く映る感じで本来の力強さに欠く分、評価を下げざるを得ないということ。
他では平場戦の1勝クラスをピックUPして月曜12Rのノーベルプライズ。
支持を集めた新潟では案外な4着だったが、内々で抑えているうちに集中力が途切れた結果に過ぎぬ。行きたがる素振りを意識したこともあるが、急なコーナーを切っているうちにストレスを溜めたといった側面も。従って、デビューを飾った今回の舞台で大きく変われる筈なのだ。
単純な併せ馬といった調教欄に記事になっているが、他厩の組と絡み合って4頭でのせめぎ合いだったのが4Fから。その中でひと際光る動きを見せての5F67.3秒で、スパートしたラストが素晴らしい反応。今回より相手の揃った6月が骨折明けで、その時より格段に攻め強化が叶ったのであれば、通過点と結論づけて良い。
2歳戦は月曜3Rのエストロ。
垢抜けた好馬体で動き自体からもセンスが伝わってきた前走だが、窮屈な競馬に終始して不完全燃焼。唯、長距離輸送を考慮しての直前が、ポリでの5F70秒に近い時計とスイッチが入り切らなかった面も。対して、今回は攻めに攻めて、ここで何としても初勝利といった意欲がダイレクトに伝わった。
ハロー明けとはいえDWでの5F65.0秒が出色だし、外のGⅠ馬を尻目に持ったままと完全に子供扱い。その性能を如何なく発揮しての臨戦なのだ。同じ1400mだが、コーナーが緩やかな府中ならスムーズに捌けるだろうし、長い直線で元値の違いが際立つこと請け合い。
柴田卓哉
SHIBATA TAKUYA
学生時代は船橋競馬場で誘導馬に騎乗。競馬専門紙『1馬』在籍時には、 「馬に乗れる&話せるトラックマン」として名を馳せる。 30年以上にも渡りトレセンに通い詰め、 現在も美浦スタンドでストップ・ウオッチを押し続ける。 馬の好不調を見抜く眼に、清水成駿も厚い信頼を寄せる調教の鬼。 また東西問わずトラックマン仲間たちとの交友関係も広く、トレセン内外の裏情報にも強い事情通。