サマー2000シリーズの一角とだけ捉えるべきではないほどの重要性を帯びている札幌記念。
秋に向けてのステップには恰好の時期になるからで、当然の如く役者が揃った。その最たるがGⅠ3勝馬ラッキーライラック。
宝塚記念は道悪に尽きるし、サートゥルナーリアに対してであれば0.4秒差に過ぎぬ6着であれば、崩れたとは言えぬ。
そもそも、馬体重を増やした昨秋からが物語るように、未だに成長過程にあるのが何より。加えて、巧みなレース運びで着差以上の完勝だったのが同距離の大阪杯ということなら、それに重きを置くのが妥当ではないか。
ただ、例年の使い出しは秋。栗東での7F追いを経て直前の本馬場では3F34秒を切る好時計マークがあっても酷暑が続く中での調整は初。そこに隙が生じる恐れも。
唸っているのが美浦から現地入りした2騎。まずはノームコア。
春のマイルGⅠ2戦で上位に関わってから更に勢いを増している。特に、外目を選んだ1週前は斟酌無用の一杯追いで、5F65.1秒と良質な筋肉をフルに駆使したフォームが実にダイナミック。
マイルにシフトしてからの本格化というこれまではあるし、昨年のヴィクトリアマイルでラッキーライラックを下せたのは特殊な芝に対する適性が為。ただ、3歳秋の紫苑ステークスは長く脚を使っての好時計勝ちだったから、2000mが限界を超えているわけではない。ローカルなら更に。
トーセンスーリヤは段階を追って時計を詰めてきた。
場合によっては極端に動かないといったムラっ気が雲散霧消と、目下は稽古が実になっている段階だということ。結果、美浦での動きが洗練されていた上に、輸送を経ての現地でもビッシリ追えたように、本格化を窺わせている。
得手とは言えぬ新潟外回りでのGⅢ勝ちがあった挙句、宝塚記念では積極果敢に攻めてもラッキーライラックには0.3秒しか負けていない。元より、1勝2着4回と北海道では抜群の安定味を誇っていた。その後押しもある。
放牧先から直接札幌入りしたのがブラックホール。
歴戦の古馬相手となると経験値といった点で分が悪くなるのは百も承知。が、頭打ちに見えた2歳暮れからの一連で着実にレベルアップ。結果、ダービーでは脚を温存する形で、コントレイルに次ぐ上がり34.1秒と光明が見えた。
しかも、今回は札幌2歳ステークスをイメージして立ち回れるローカルとなれば、上積みは相当。再上昇モードに突入しての54キロと◎まであって良い状況に。
取捨微妙なのが函館記念組。そこで復活を遂げたのが、ホープフルステークス2着があっても長らくの不振を託っていたアドマイヤジャスタ。
ただ、展開に乗じたといった要素を完全に打ち消すことはできぬ上に、今回は別定になっての3キロ増。ハナからフロック視するのはどうかと思うが信頼度といった点で今一歩といったところか。
むしろ、タイトなマークに遭った挙句、レースの上がりが37.1秒と落ち込んだわりに二枚腰発揮の4着と力をつけたトーラスジェミニにより魅力を感じる。問題はベストより1F長いといった点だが、単騎逃げが約束されているメンバー構成。残り目を考えておくべき。
あと侮れぬのがペルシアンナイト。
勿論、11月のマイルチャンピオンシップに焦点を合わせているだろうし、守備範囲から外れる距離。しかし、近年稀に見るレベルを誇った昨年は0.3秒差5着。じれったいほどのラストに限界を感じもした反面、当時ほどの相手ではない点で浮上できる余地あり。
重賞が組まれていない新潟からはまず土曜メイン・日本海ステークスを。
先月の復帰戦で鮮やかな差し切りを見せたダンスディライトが人気を集めそう。良血開花を思わせたからだ。ただ、やはり後ろでジックリを構えてこそのタイプと、新潟内回りはどうもそぐわないイメージが。
となれば、昨年の当レース2着ノチェブランカを指名したいところ。
ここ目標が伝わってくる熱心な乗り込みがあるからだ。ラスト2本がBコースだった5月は見切り発車だったということ。が、5F追い1本目だったのとは裏腹に、そこからの良化度がスロー。最後尾からの行き出しだったとはいえ、格下にあしらわれた1週前があっての直前が坂路。ワンパンチ足りなそう。
それならばトラストケンシン。
先週の反応は鈍かったが、そのひと追いで変わった。しまい重点ながら脚色に余裕がなかった前回から間隔を開けたことによってボリュームアップといった全体像だし、最終追いの坂路も53.0秒と大幅に短縮。理想は府中だろうが、アルゼンチン共和国杯5着の地力を信じて良いだけのデキに達した。
叩き一変がありそうなのがローズテソーロ。
馬体回復がテーマだった前走が+18キロと目論見通り。が、生憎の道悪で直線では脚が上がった。昨夏、当コースでの上がり32.2秒が示す通り、力勝負の馬場に泣かされたわけ。従って、あくまでも高速ターフが必須となるが、中1週でもDWでの5F追いを敢行できたことから完全にスイッチオン。それは、1F12.2秒宇を楽々マークできた上に実にリズミカルだったことでも分かる。3勝クラス入りしてからはひと押しが利かぬがいずれも好メンバーにあって。それに比べれば相手の質は落ちるし、立ち回りの上手さを前面に押し出せる条件。淡々とした流れを味方に引き入れる。
日曜の特別戦では10Rの閃光特別をチョイス。前開催2週目で上位に関わった馬が支持を集めそうだが、ここは上昇度を買うのが得策で、まずはマッタナシ。
5月、最外枠と恵まれた状況だったし、途中までの手応えも十分過ぎるほどだったが、結局は失速。ただ、54.6秒とワンランク上の時計で決着した中であれば、価値を認めなければならぬ。また、そこまでの過程で好時計2本と調教で動いてはいたが、馬の気に任せたまま。対して、鞍上が手の内に入れられるようになったのがこの中間で、リズム重視の5F追いができたのは、バランスの良い体に様変わりした故。昨秋に比べて加速がスムーズになったのは前回が示す通り。それ以上のデキに達したのであれば首位争い必至と見做すべき。
狙って面白いのが3歳ケイティディライト。
地方経由での再転入になるが、以前はトモに力が籠らぬフォームで如何にも成長途上。が、初めてのDWだった1週前には、5Fからビッシリ併せた結果の3馬身先着。コースでは軽いポリをこなすのがやっとだった春までとは一変したわけ。加えて、決して合うとは言えぬ渋り気味の馬場だった年明けの小倉で後続を引き離す逃げを披露。勝ち馬に食い下がったラスト1F地点まで、つまりは1000m通過が56.4秒だったのだ。ここを乗り切れるだけのスピードを既に証明している。
同じ1勝クラス、土曜12Rはノーエクスキューズで決まり。
2歳時の骨折、体質の弱さを克服したとは言えぬ段階。しかも、オール半マイルといった過程だが、丁寧な仕上げであると同時に、先週には外目でシッカリと追っての4F51.8秒。外厩で体も造ってきたからこそだし、筋肉量アップで成長も実感できている。そもそも、攻め切れなかった2月でさえ、勝ち馬は2勝クラス突破にあと一歩といったレベルだった上に、2着以下との格差が明らかだった前走が1.46.6秒で時計の裏づけもある。勿論、持ち前の切れを発揮するのには最適の新潟替り。楽に通過しなければならぬ。
3歳未勝利では土曜7Rのリーガルバトル。
成長を促しつつの過程を踏んで今回が4戦目。ただ、もっと早く勝ち上がって然るべきポテンシャルの持ち主で、コントロールを利かせにくかった初戦からであれば確実に進歩している。
ただ、6月・府中では大事の乗り過ぎた分、脚を余しての取りこぼしと噛み合わぬ部分も。しかし、間隔を開けての攻め強化が明らかな今回は違う。何せ、直前に至っても広いDWだった上に、先週には古馬3勝クラスを追走しながらゴール前では子供扱いの1馬身先着。体の使い方を覚えた故、加速までのタイムラグがなくなったということ。南半球生まれの遅生まれが鮮やかな上昇曲線を描いてきたのであれば、足踏みは許されぬ。

柴田卓哉
SHIBATA TAKUYA
学生時代は船橋競馬場で誘導馬に騎乗。競馬専門紙『1馬』在籍時には、 「馬に乗れる&話せるトラックマン」として名を馳せる。 30年以上にも渡りトレセンに通い詰め、 現在も美浦スタンドでストップ・ウオッチを押し続ける。 馬の好不調を見抜く眼に、清水成駿も厚い信頼を寄せる調教の鬼。 また東西問わずトラックマン仲間たちとの交友関係も広く、トレセン内外の裏情報にも強い事情通。