コントレイル一色に染まる神戸新聞杯は、競馬ファンならずともその行方を追いかけたくなるであろう。何せ、無人の野を進むが如く、土つかずでの二冠達成にはケチのつけようがないから。
特に、ラスト1F地点で勝負を決めていたダービーや、驚異的なレコードだったのが東スポ杯と、左回りでのパフォーマンスアップといった要素がある。問題は久々になろうが、今季初戦の皐月賞がぶっつけだったし、1週前にCWでの長目追いから直前の坂路と、当時のパターンを踏襲した上に、追い切りタイムも51.6秒と速い。死角探しは無謀。
となると、春に対戦したグループでは勝負づけが済んでいるということで、上がり馬に注目したくなる。
実際、セントライト記念はバビットが再び逃げ切ったではないか。ただ、福島・ラジオNIKKE賞組を取り上げるにしても、勝ち馬からは水を開けられたパンサラッサとディープキング。ハンデ戦だったそこに比べると家賃が高いのでは。
秋を迎えての成長に期待が持てそうだったのがヴェルトライゼンデ。
巧みなレース運びだった前走に光明を見て良いし、流れが落ち着きそうなメンバー構成といった点でも舞台装置は整った。けれども、熱発で一頓挫あったのが今月に入って。結果、先週のトライアルからの横滑りとなると、文字通り本番に向けての叩き台に過ぎぬと捉えるのが妥当に。
相手の1番手としたいのがディープボンド。
確かに、前走の1000m通過は61.7秒でユッタリとしたペース。その分、後続は動き易いわけで、実際に捲ってくる馬もあって出入りが激しい中、呑み込まれ易い状況だったのだ。そのGⅠで辛抱強く5着に粘ることができたのは、皐月賞の経験を生かせた故。つまり、その学習能力を高く評価すべきだし、京都新聞杯と同じ2200m。より立ち回り易くなる点が強烈な追い風にもなっている。
あと面白いのがビターエンダー。
ダービー10着を実力と思ってはいけないからだ。何せ、躓き気味のスタートで位置取りからして絶望的だったから。ただでさえ、前向き過ぎる面がある分、馬混みでストレスを溜めることにもなった。これは、プリンシパルSの反動が大きかったが為。中3週にも関わらず、実質1本が示す通りであった。
対して、ひと追いごとに時計を詰めた結果の直前が5F66.9秒で糸を引くような伸び。夏を超えて幅が出たと実感できる造りになったのであればベストより1F長くても乗り切れそう。
中山メインはGⅡのオールカマーで、大一番を控えるグループにとってのステップに。まず取り上げなければならないのがフィエールマンであることは衆目の一致するところ。
が、予定していた木曜追いをキャンセル。熱発による回避が決まった。
3歳時、GⅠにあと一歩に迫っていたのがカレンブーケドール。
今春、GⅠで牝馬旋風が吹いた事実も重ね合わせてみれば、首位争い必至となるのは自然の成り行き。ドバイへのカラ輸送が応えての立て直しといった経緯を差し引いても、だ。
現に、坂路での最終追いは51.9秒での1馬身先着だったし、2週前のウッドでも余力残しながらシャープな伸びを披露していた。
ただ、オークスを一応の完成形と見做すと、そこに至るまでに時間を要したといった点が浮かび上がる。牝馬ながらコンスタントに使ってこそといったタイプで、久々がネックになる恐れも。
天皇賞ではフィエールマンに0.4秒差と水を開けられたミッキースワローを敢えて◎に。
力で捻じ伏せられたのは確かだが、自身は3歳秋の菊花賞以来となる京都。その時に比べると我慢を利かせた競馬が可能になったわけで晩成型ならでは。しかも、ジックリを構えて弾けることのできる中山外回りとなれば威力倍加といった足跡を残しているではないか。
また、トモに厚みが出てボリュームアップがダイレクトに伝わってきたのが、ここに至る過程。結果、最後の最後までセーブ気味だったにも関わらず、5F65.4秒をマークできた。春以来となるが、七夕賞からだった昨年より暑い時期を避けられたといったことでも上積みは相当。少なくとも、ステイフーリッシュの後塵を拝することなどあるまい。
相手本線はクレッシェンドラヴ。
こちらは、七夕賞で2度目のGⅢ制覇を果たしての臨戦。確かに、捲り易い福島ほどの安定味を中山で求めるのは酷か。ただ、同世代のミッキースワロー同様、奥手。目下の勢いが凄い。帰厩後1本目のDWで5F68秒を切ったかと思えば、最終追いの3頭併せでは、先頭から1秒の差を覆しての1馬身先着で、先行した2頭の外に進路を取る高いハードルを楽々とクリアーしたのだ。
振り返れば、昨年の当レース5着は、直線入り口で行き場を失くして脚を余した分。内田博がその反省を踏まえていれば、大きな前進があると考えるべき。
中山の特別戦では土曜10Rのダノングロワールを取り上げる。
成長を待ちつつの過程だったのがこれまでで、未だに2勝クラスというのが不思議に思える好素材。3→1着だった春にしても、腰に力がつき切っていない分、存分に攻められずにいながらのステップアップ。逆に、今回はラスト2本で好時計連発と大きく変わった。
殊に、先行態勢だったとはいえ、OPのハヤヤッコを相手にした1週前には、それを子供扱いしての1馬身先着と本物になりつつある。上がりが速くなる高速ターフなら取りこぼしもあり得ようが、スタミナを前面に押し出せる今回は盤石。
ここからは平場戦でまずは西下するリョウガ(土曜・中京12R)を推す。
昇級初戦の札幌では13着と大敗。が、去勢明けだったことに加え、それまで未経験だったダートでの調整とエクスキューズは成り立つ。
対して、ウッドと坂路を併用しての調整で全身に活気を漲らせている。変則日程だったが念には念を入れての木曜にも坂路58.7秒で微調整を済ませた。2走前、ローカルでの勝ち上がりだったが、広いコースで存分にパワーを生かしてこそ。実際、ワンサイドでの初勝利だった1月には1.55.2秒。同日、同じ未勝利でこれより劣る時計だったバーナードループがその後には交流重賞を制覇。時計が価値を伝えているではないか。
中山では日曜6Rのアポロティアモ。
中1週だけに、しまい重点には納得が行くし、1F切ってからは一気に回転数アップとメリハリの利いた調教なのが何より。加えて、持久力を生かす戦法でひと皮剥けたといった経緯があって、その形では底を見せていない。
特に、前走はスパートせんとしても番手にいた勝ち馬を引き離せぬまま直線を迎えざるを得なかった。にも関わらず、馬体が合ってのしぶとさ◎で3着以下には7馬身と水を開けた。1勝クラス突破に手間取ってはいけないレベルにまで達している。
最後に2歳未勝利の土曜2Rからマイネルダグラスを。
デビュー戦では長き脚を使っての2着。大きな収穫と捉えられるのは、余裕残しの仕上げだった故。勿論、追走に余裕が生まれる1F延長となれば、動き出しは自在になろうし、一叩きで見た目にも締まった体に様変わりしているのだ。
その効果を物語るのが最終追いで、デビュー前の相手だっただけに先着は当然としても1.7秒も置き去りにするとは…。首を上手く使ったフォームが抜群の推進力を生んでいるのだ。劇的な進歩と見做して良い。
柴田卓哉
SHIBATA TAKUYA
学生時代は船橋競馬場で誘導馬に騎乗。競馬専門紙『1馬』在籍時には、 「馬に乗れる&話せるトラックマン」として名を馳せる。 30年以上にも渡りトレセンに通い詰め、 現在も美浦スタンドでストップ・ウオッチを押し続ける。 馬の好不調を見抜く眼に、清水成駿も厚い信頼を寄せる調教の鬼。 また東西問わずトラックマン仲間たちとの交友関係も広く、トレセン内外の裏情報にも強い事情通。