今秋最初のGⅠ、スプリンターズステークスは、昨年に比べて勢力図が明確になっているのではないか。それは、ナムラクレアの進化に拠るところが大きい。
確かに、人気を下回る5着が昨年で、それが唯一の中山経験となると急坂がネックと見做すこともできるが、今季の中京では1、2着で、出し抜けを食った高松宮記念が道悪だっただけに大きく幅を広げたことに。
そして、馬場の良い処を選べた反面、コースロス承知のレース運びだったキーンランドカップが実に力強い伸びで着差以上の強さ。3歳時の当レースは塗り潰すのが妥当と言える。
また、昨年と異なり、ここを見据えた叩き2走目だし、CW追いを交えて最終追いを迎えられたのだ。同じ坂路53秒台での締めでも、1年を経ての上積みは計り知れず、ビッグタイトルをゲットする資格あり。
ただし、その本命で事足れりとするには伏兵多数。その筆頭に挙げられるのがアグリ。
抜群の安定味を伴っての4連勝の大半が1400m。つまり、スプリント戦に転じてからは試行錯誤で今ひとつ噛み合わないレース続きだったが、前走のセントウルステークスにフォーカス。
落ち着いた流れの中、馬混みで冷静に対処した上に、馬群を縫うように伸びた結果、僅かに届かなかっただけと大きな収穫を得た。元々、センスに長けたタイプだけに、初になる中山にも難なく対応できそう。
セントウルステークスからの上積みをみこむべきもう1頭はピクシーナイト。
栄えあるGⅠ馬で、そのタイトルは3歳時の当レース。それが1200mに転じての3戦目だったから、非凡さに目を奪われた。
その暮れの香港で酷いアクシデントに遭った故、全盛時を求めるのには無理があるかもしれないが、実戦に辿り着くことがテーマだった今春と異なり、秋初戦は馬を追い込むメニューを経た。そのわりに終いの反応が物足りなかった反面、出負けから中途半端に追い上げる最悪のパターンに嵌ったのも確か。身体能力をフルに生かす形、即ち前を射程に入れるポジションからの立ち回りに一縷の望みが。
控え目だった坂路54.2秒の追い切りも、中2週なら十分。前哨戦を調教代わりと捉えれば許せる範囲に収まる。
そこでの勝ち馬テイエムスパーダは、逆に用無しとすべき。
馬場が絶好だった阪神開幕週で前半3F33.5秒に抑えられた逃げを打てれば、勝てて当然。しかも、押してハナといった点からも今回は注文通りにはいかぬ筈で、あえなく退いた昨年の二の舞になるのでは。
要は、同じタイプということならジャスパークローネに分があるわけ。
北九州記念が示す通り。こちらは、中京→小倉とコースを問わぬ守備範囲の広さを我が物にした点でもここまでをフロック視するのは危険。けれども、どうしてもハイテンションになりがちなのが当レースの風景。逃げ馬に分が悪くなるのが気懸かり。
セントウルステークスでの総括同様、ここに至る過程で鍵になる北九州記念に関しても、2着のママコチャを主力扱いに。
道中で力みがちになるマイルからの路線転換でひと皮剥けた。ラスト2F、10.8-11.0秒と弾けに弾けた安土城ステークスで本格化の兆しは見えた上に、初の1200mにも戸惑うことなく最後の最後で迫力ある伸びと、スプリント適性が見えている。
しかも、外に張り気味だったことから、カーブが緩やかになる中央場所で更に。距離2度目といったファクター以上の追い風になろう。
下剋上を目論むもう1頭がマッドクールで、こちらの◎も考えている。
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柴田卓哉
SHIBATA TAKUYA
学生時代は船橋競馬場で誘導馬に騎乗。競馬専門紙『1馬』在籍時には、 「馬に乗れる&話せるトラックマン」として名を馳せる。 30年以上にも渡りトレセンに通い詰め、 現在も美浦スタンドでストップ・ウオッチを押し続ける。 馬の好不調を見抜く眼に、清水成駿も厚い信頼を寄せる調教の鬼。 また東西問わずトラックマン仲間たちとの交友関係も広く、トレセン内外の裏情報にも強い事情通。