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競馬コラム

心地好い居酒屋

2019年12月15日(日)更新

心地好い居酒屋:第79話

“13日の金曜日”とはよく言ったもんで、寒さ厳しく最高温度は9度強。10度に満たなかったのだ。遠野にとって風邪は禁物。<ついてねぇや>と思いつつも、1時間後の熱燗を想像すれば苦ではない。下着を重ね着し、長めのマフラーを首に巻きコートを羽織って出掛けた。

「頑鉄」に着いたのは5時チョイ過ぎ。さすがに縁台に煙草を吹かす親爺の姿はなかった。玄関を開けると、早めの到着を予期していたかのように親爺が寄ってきて「寒い中、お疲れさん」と声をかけカウンターに誘い、仲居の木村さんはコートとマフラーを預かり指定席の後ろのハンガーに吊した。先客はもちろん居ないが、全テーブルに「予約席」の札が。

「結構結構、大繁盛じゃない」。冷やかしながら腰を下ろすと、吉野が早速熱いお絞りを、続けて焙じ茶と茶請けの千枚漬けを置いた。「ありがとう。今日は忙しそうだね。後は適当にやるからほっといて」と労い、顔と手を温め、焙じ茶を啜り茶請けをパクリ。「旨い」。親爺もニッコリして「聖護院の蕪はやっぱり違うね」と。遠野はうんうんと頷き「とはいえ、お嬢達に能書きタレるんじゃないよ」「……。分かってる」。答えたものの、もしかしたら自慢したかったのかも。

「それより、お嬢達の来る前に『有馬記念』の検討をしておこうよ。この秋はお嬢達も馬券買ってないし」。親爺が話題を変えた。「そうだなぁ。いろいろあったし、乗り馬券は『ダービー』以来だもんな」。遠野も<「有馬記念」は>の気持ちがあっただけに即、応じた。

「ま、検討というより、とのさんが何を買うかだな」と言い置き、自分は板場に入り、焙じ茶のお代わりを持ってきた。一口啜った後「俺はヴェロックス軸で馬連と3連複を買う積もり」。遠野が躊躇いもなく言い切ると「えっ?」。絶句し、続けて「とのさんが言い出しっぺで、この間、横ちゃんも『今年の、金子オーナーはアヤが付きましたね』と納得してたじゃん」。親爺、不審気だ。「いや。単ではなく複だから、頭じゃなくていいんだ。親爺がいみじくも名付けた『ノーザンC』には金子さんの馬は4頭、今度はファン投票の絡みがあるといっても1頭のみの挑戦。舞台は、距離こそ違え、致命的な不利を受けた『皐月賞』と同じ中山…。それに川田がルメールを筆頭に外国人ジョッキー相手にどう乗るかにも興味があるしね」。一気に喋り喉を潤した。

「アーモンドアイは?」「強いよ。勝つかもな」「それでも買わないの?」「買うのは買うけど、お嬢達の乗り馬券はヴェロックスを軸に相手がアーモンドとリスグラシュー2頭軸の3連複。紐は豊ちゃんのワールドプレミア、それに因縁のサートゥルナーリアってとこかな。残りは枠順と天気を見て来週連絡するよ」「ヴェロックスねぇ」。親爺、カウンターの奥にあった「日刊スポーツ」の特集版を“素速く”引っ張り出し「馬柱」をまじまじと見詰めている。

「別に親爺が訊いたから答えたまでで、後は横山君と相談して」と突き放し「じゃあ俺は席に行くから『千寿』の熱燗と氷水を頼むわ」。親爺は首を捻りながら、まだ新聞と睨めっこしている。遠野が席に着くと、鍋好きの“パンちゃん”こと木村さん一行3人がやってきた。お互いに「やぁやぁ。久し振り」。挨拶していると仲居の木村さんがテーブル一つ隔てた席に案内した。

さすがに親爺も新聞を手放し、立ち上がって新客に「らっしゃい」と声をかけ、そのまま板場に行き熱燗と千枚漬けに白子のポン酢を持ってきて「ヘイ!お待ち」と。遠野は「一人でやっとくから構わないで」と言い手酌で飲み始め、残っていた千枚漬けに箸を伸ばした。そこへ美女二人が、続いて井尻が入ってきた。すでにコートを脱いでいる。何気ない行動だが感心した。偉い。恐らく井尻は女性陣に倣ったのだろう。

“パンちゃん”達に会釈し、遠野に向かい一斉に「今晩は。お待たせしました」。挨拶を済ませるや、すぐにいつもの席に着き「あら!遠野さん、手酌なんて可哀相」。梶谷は楽しんでいる口振りだ。忙しそうに板場と“パンちゃん”の席を往き来していた親爺は早速仕事場を変更、「とのさんと同じでいいよね」と確認し、ほどなく熱燗とお通し、ついでにビールを持って来て、自らも座り込んだ。差しつ差されつの後、千枚漬けを食べた梶谷が「やはり今の時期の聖護院は美味しいわね、阿部さん!」。聞いた遠野が親爺を見ると、肩を窄(すぼ)め「味の分かる人に食って貰えば蕪も幸せだよ。この後は唐墨を準備してるからね」と。<能書きをタレなくて良かった>って様子がミエミエだ。苦笑いするしかない。

「あ、そうそう。先日、別部さんが石狩さんという料飲担当の部長さんとお礼にいらっしゃって。有村も『今後ともできるだけの協力をさせていただきますよ』と。別部さん大喜びでした」。<仕事の話は酔う前に>とばかりに阿部秘書が遠野と井尻に報告した。梶谷は素知らぬ態で飲み、食べ「熱燗と唐墨は相性がいいですね」と。 「新しいクライアントってのは、やはり有村社長の紹介でしたか。それでも『完庶処』を隠すところが“らしい”ですね。変な軋轢も生まないし…。ただ、あのナベがどう吹聴するか」「ナベ?」「ごめんごめん。昔から石狩鍋に引っかけて呼んでたもんだから。ま、ナベを同伴させたってことは別部も覚悟を決めた証拠でしょう」と言い、新しい熱燗の酌を受けた。「部長さん二人ですからねぇ。有村も恐縮していました」。阿部秘書もビックリしたようだ。

「なぁ~に。気にすることはありません。何せ石投げ部長ですから『TCM』は」。遠野の言葉に全員が「何?それ?」。顔を上げた。「いやね。昔、秘書時代に付き合っていた防衛庁の人の階級が三佐で『凄いですね』て感心したら、その人が自ら『石投げ三佐ですから』と。つまり防衛庁で石を投げたら三佐に当たる―。それだけ三佐がゴロゴロしてた訳」「で、今は?」と親爺。「知らないよ。ただ、当時は帰還兵や警察予備隊出身者が自衛隊に居て、おまけに防衛大学の一期生が40歳前後。三佐にせざるを得なかったみたいだよ。あ、勘違いしないで。井尻は立派な部長だからね」。つまんない事を口にしたばっかりについつい長口舌になってしまった。

「ふぅ~ん。競馬なら石投げノーザンか」と親爺。「いやいや、“当てるならノーザン”と言った方が正解だな」。二人の遣り取りを聞いた梶谷が反応した。「そうだ!この秋は馬券買ってないし『有間記念』はよろしく」「私もお願いします」で二人して財布を取り出した。




 

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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