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競馬コラム

心地好い居酒屋

2019年10月02日(水)更新

心地好い居酒屋:第75話

9月中旬に急な冷えで感じた〽秋風ぞ吹く―と違って季節相応の爽やかな秋風を楽しみながら「頑鉄」に着いた。5時半だ。“秋の日は釣瓶落とし”で向かう時の電車には西日が差し込んでいたのだが、今は夜。周りの店にも看板にも灯りが点いている。

縁台に親爺は居ない。<すでに横山は到着か>と思いつつ、店に入ると、果たせるかな玄関に背を向け指定席で何か見ている。親爺は板場に入っているようだ。遠野は後ろから横山に「お待たせ」と声をかけ、そのままカウンターに向かい、焙じ茶と“とりあえず”の茶請けを頼んだ。

席に戻ると横山は文庫本を閉じたところだった。「『競馬ブック』はどうした?」。遠野が訊くと「今週の『ブック』は明日(10月1日)発売ですって」「消費増税の影響?」「はい。今日から値上げ価格の750円で売る訳にはいかないし…」「なるほど」と遠野が納得すると、親爺は焙じ茶と茄子の漬け物だけを格子越しに手渡し「すぐ酒とツマミを用意するから」と言い、再び引っ込んだ。。

遠野が目の前の本に目を落とすと「あ、これ『八百長』です」「ほう!『八百長』ねぇ。いい本に目をつけたね。人間も厩舎事情も今の競馬界ではありえない話だけど引き込まれるだろ。俺が初めて馬券を買った年の(昭和40年)直木賞だから、よく覚えているよ」。遠野が感慨深げに応じた。声が聞こえたのか、「八海山」の純米吟醸とお通し=鹿尾菜(ひじき)の炒め煮を持ってきた親爺が「新橋遊吉もこれ一冊だもんな、面白かったのは」とポツリ。話題に終止符を打った。

本をバッグに仕舞った横山が訊いた。「親爺さんちのキャッシュレス対策はどうするんですか」。「んなもん。ポイント還元どっちゃらの申請なんて面倒でややこしいからな。そのまんまだよ。仕入れの支払いは増えるけど、その分を客に上乗せはできないし。ま、それでやって行けなくなったら閉めるだけさ」。親爺「へへっ」と笑いポンポンと頭を叩いた後、「消費税より競馬だよ競馬。秋のGⅠも始まったしな。おまさちゃん達がきたら競馬どころじゃないだろ」。

横山も“待ってました”とばかりに身を乗り出し「で、昨日はどうでした」「ダノン流しだったからダメ。でも、とのさんは『買わない』と言うし出費は1万円。ま、手始めとしては“良し”だな」。負け惜しみのようにも聞こえるが、可愛くもある。 「それより横ちゃんは?」「自分も同じですが、でも見応えはあり、今後の馬券対策に繋がる面も十分。ですよね遠野さん?」「ん?まぁな」。遠野は軽く頷いた後、グラスの酒を空けると、炒め煮の中から大豆と椎茸を摘まんで口に入れ、手酌で注ぎたした。親爺は理解できない様で、遠野と横山の顔を交互に見た。

「ほら!『安田記念』の後、遠野さんが感心してたじゃないですか。『アーモンドアイをギリギリまで被せた川田って奴は度胸も腕もある』と。今回はその逆だったんです」。横山が説明し、これまた遠野と同じ手順で「八海山」を飲んだ。親爺、やや不満気に手酌の酒を飲んでいたが、急に「そうか!」。ハタと膝を打ち「昨日の川田ダノンはルメールのタワーオブロンドンに先に行かれ直線出るに出られなかったからな。脚を余していたし、あれがなければ②着はあったな」

「“タラレバ”はともかく、一流ジョッキーの腕と駆け引きは、枠順や他の馬との絡みもあり、馬券を買う方としては今後のGⅠが面白くなったってこと。去年みたいにルメール&社台の独壇場ではつまんないだろ」。やっと遠野が本題に触れた。

「去年はルメールが215勝で以下デムーロ153勝、日本人は戸崎の115勝が最高で以下は福永103勝で川田は93勝の5位でしたが、今年は昨日の時点で川田121勝で2位がルメールの115勝…。だったと思います」。正解かどうかは別にしてスラスラと出てくる所が偉い。こういう積み重ねがいい予想、そして的中につながる確率が高くなるのだ。少なくともプロとしての努力してない奴よりは…。

「凄いよ横ちゃんは。社台人脈も勉強してるし…」。親爺の賞賛に「当たり外れはともかく、検討中に気になったことが有るときは遠慮なく電話してくださいね」と横山。「いただいた豊富な材料を捌いて調理しますのでよろしく」。親爺がふざけて頭を下げる。 「ところで『札幌記念』はとうの昔に終わったのに『秋刀魚』はどうなった」。今年は旨い秋刀魚にありついてない遠野が冷やかす。3年前に初めて会った頃、「秋刀魚」といえば「札幌記念」と宣(のたま)っていた時の事を持ち出したのだ。「勘弁して下さいよ。あの節は…。生意気だし、いろいろと失礼なことばかりで」。横山の苦笑いに対し、差しつ差されての遠野と親爺は機嫌よく大笑いだ。

「あら!皆さん楽しそうですね」。上から梶谷の声が落ちてきた。いつの間にか井尻を除く梶谷、刈田、下川の3人が側に居た。「らっしゃい。気がつかなかった」。親爺が慌てて立ち上がると「お先にやってます」と横山。悪びれてないし、周りも咎めない雰囲気だ。<チーム井尻は上々だな>。ふと思う。

「黒霧島」に氷、お通しが行き渡り、梶谷のグラスに酒が満たされて消費増税前の最後の宴会が始まった。梶谷が隣では目でコンタクトとる訳にもいかず、誰にともなく「井尻は?」と遠野。「局長と一緒です」。刈田が答える。「ふ~ん」。遠野が首を傾げると「今日は飲食ではなく直談判です」。刈田の意気込んだ言葉に「談判?」。遠野は思わずグラスを落としそうになった。梶谷は「美味しい。精米率は50かぁ」なんて呟きグラスを空け、新しく運ばれてきたホウボウの刺し身に箸を付けている。

「実は例の関西電力の件で地元への取材願いを出したら却下で。『消費税も上がるし、どこにそんな金があるんだ』と。さすがに部長もア然として『国の原発政策にも関わる問題で大疑獄の可能性もあるじゃないですか。配信やテレビ情報頼りじゃいい記事は書けませんよ』と反発しましてね。丁々発止があって。自分達には『先に行ってろ。遠野さんに隠す必要はないぞ』と」

「甘方に懐柔されなければいいけどな。ま、結論は先送り。今日のところは関電の記者会見待ちってことでシャンシャンかな」。梶谷は二人の遣り取りを聞いていたのかどうか「139円が136円になると響くのは響きますよね。尤も、それより無駄な飲食経費を削った方が手っ取り早くて効率もいいんですけどね」。周りには一瞬静寂が訪れた。




源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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