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競馬コラム

心地好い居酒屋

2020年05月06日(水)更新

心地好い居酒屋:第87話

「天皇賞」翌日4日午後の電話では大はしゃぎだった「頑鉄」の親爺だが、5日の夜は打って変わってのブン膨れ、ついつい長話が二日続いた。まぁ年寄りの適度のお喋りは肺にも認知症にも効果があるってんだから無駄じゃないが…。

なんでも横山との「天皇賞」検討会では親爺がミッキースワローを、横山は「心情的には恩のあるメイショウテンゲンですが、これは自分自身の問題。親方へのお薦めはスティッフェリオ」だったらしい。

「いやね。横ちゃんいわく『北村友は乗れていて、社台の信頼を得るようになったし、第一『日経賞』では0秒2差③着、昨秋の『オールカマー』ではミッキーに勝ってますから』と。で、まあ、馬連は⑤ミッキーから買い、3連複は⑤⑥2頭軸で流したってこと」 「へぇ~。凄いじゃん。2000円づつ買って配当は27万ってところか」。遠野が応えてコーヒーを飲み、ゴディバのチョコを口の中で溶かした。

「大当たり!さすがとのさん。読みが鋭い」「こんなことで褒められても嬉しくも何ともねぇよ。横山君に入金し馬連8点、3連複7点の15点だろうけど、上限3万円を守ってるのなら偉い」「もちろんだよ。横ちゃんは7日に出社するらしいから『とりあえず21万円持ってきて』と頼んどいたよ」

どうやら7日は二人で酒盛りをし、ついでに「NHK杯」の予想をするみたいだ。<2週分の6万を残し、横山の帰りのタクシー代が1万だな>。そう思いながら「かりんとう」をガリッ。セブンイレブンのPBだが“沖縄黒糖使用”がウリで、これが結構旨い。

「何食ってんの」「かりんとうだよかりんとう」「ふ~ん。懐かしいなぁ。それはともかく『天皇賞』はとのさんのおかげでもあるんだ」。親爺の口振りが変わった。

「慰めならいらねぇよ」「と、とんでもない」。親爺が慌てて否定する。手を横にふる仕種が見えるようだ。

「ほら、『皐月賞』前に金子オーナーのラインベックが昨年のヴェロックスの無念を晴らせるかどうかが話題になったじゃん。結果は完敗。でね、横ちゃんが『遠野さんの仰っていた“アヤ”。金子さんのGⅠ、特に八大クラシックでの不振は続いてますよね。人気馬の1頭ユーキャンスマイルは急に岩田康が乗れなくなったし、ここ(天皇賞)は思い切って軽視しましょう』と。これが決め手になった訳だ。ユーキャンを切れれば軸は絞れるからな」

「ほほう。有り難いお言葉で。ま、いずれにせよお互いに儲かったのなら結構。いつになるか分からんが、ご祝儀待ってますよ」。冷やかし気味に応えると『NHK杯』はどうなの?」「豊ちゃんの意志か周りの絡みかどうか定かじゃないが土曜日のアドマイヤビルゴ(京都新聞杯)じゃなく東京に来るってことは、素直にサトノインプレッサを狙うのが正解かも。ルメールのレシステンシアにレーンのルフトシュトローム…。そうだな、俺は普通のGⅠならってことで金子オーナーのラインベックからも少し買う積もり。昨年の皐月賞後もGⅢ、GⅡは勝ってるし、順番を踏めば次は後発のGⅠだろ…。なんてね」と言って立ち上がり冷蔵庫から水を持ってきた。

「そうかぁ。参考にさせていただきます」「そう、参考程度にしといて。今は有能な参謀が就いたことだし、それの方が俺も気楽だよ。何しろ会えないことにはどうしょうもならん」「そうだな。今日は清水さんの遺影を前に晩酌、ちゃんと勝利の報告をしとくよ」で電話を切った。清水の命日を覚えていた。感心する。感謝する。

そして昨日。今度の電話は夕方だ。すでに一杯はいっているようだ。

「とのさん見た?俺もよ、すぐに再開できるとは思っちゃいないし、宣言が出る前から店も閉めてたから覚悟はしてたよ。でもな、安倍のあの言い草はねえだろ。専門家会議ってのもロクなもんじゃねぇな」。いきなり昨日の記者会見の話が始まった。

「<奇貨居くべし>、<小人の過つや必ず文(かざ)る>…。これまでも色んなことを言ってきたが、アイツはあらゆる悪を兼ね備えているよ。少なくとも俺と親爺の感覚では」。遠野は極力声も口調も押さえて言った。

「飲んでるの」と親爺。「ああ。最近はほとんど『匠』だな」。訊かれる前に答え、続けて「親爺は『八海山』か?」「敵わねぇな、とのさんには」「いや、清水さんが喜んでるよ」。遠野が言うと、親爺グスンと鼻を鳴らし「安倍ってのは情はもちろん血も涙もねぇな。言葉は『痛恨の極みで責任を感じております』だが、一回だって責任とっちゃいねぇ。昨日ぐらいは自分の心と言葉で喋るはず…。少しは期待してたのに、何だあれは、またまた例のほら、そうプロンプターを使って官僚の書いた中身のない文章を読み上げるだけ。心が籠ってないし、自分の考えでもないから平気で『持続給付金は最も早い人で8月から入金を開始します』なんて言い間違いをするんだ。働けない苦しさ、今日の金がない人間の立場なんて全く分かっちゃいねぇ」。そこで一息入れた。かすかにふぅ~という音が聞こえてきた。煙草を吹かしたようだ。

「あれは言い間違いじゃなく日と月の読み間違いだと思うぞ。あいつにすれば8日も8月も関係ないし、だから間違いにも気付かず得意満面で能書きを垂れたわけでね」と言い、酒を、そして水を飲んだ。

「違えねぇ。あいつに言葉はないんだから読み間違いだな。初期対応の遅れなんて噯(おくび)にもださず、むしろ『徹底的なクラスター対策によって中国経由の第一波の流行を抑え込むことができたと推測されます』とかほざいて…おまけに専門家会議の尾身なんての何者だ。PCR検査もロクにさせないで。国の言いなりになってればてめえが理事長を務めている「地域医療機能推進機構」への補助金が増えると思ってるんだろうな。俺もよ、とのさん達ほど政治は詳しくねえけど、知る限りでは戦後史上最悪で無能な総理と内閣と取り巻きは居ない。記者会見の場に偉そうに突っ立ってる官邸の役人が国を滅ぼした昔の中国の宦官のように見える。このままじゃコロナより先に国が亡くなっちゃうんじゃないの」

かなり親爺のピッチは上がっている。善人で温厚な職人の親爺をここまで怒らせるのだから罪作りな話ではある。「とのさんよ~。もう一回だけ一緒に『ダービー』を生で見られるかねぇ。ふぅ~。少し酔ったみたいだしボツボツ寝るわ」「ああ。今度はこちらから電話するよ。おやすみ」

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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