協力:
  • Googleログイン
  • ログイン
  • 無料会員登録
  1. トップ
  2. 無料コラム
  3. 心地好い居酒屋
  4. 心地好い居酒屋:第90話
  5. RSSフィード ツイッター YouTube はてなブックマーク

競馬コラム

心地好い居酒屋

2020年06月24日(水)更新

心地好い居酒屋:第90話

「豈(あに)図らんや」とは、まさにこのこと――。22日の横浜、東京は雨に加えての梅雨寒。親爺や横山と約束してたとはいえ、<どうしたものか。行くべきか行かざるべきか>と思案の最中にメールが入った。梶谷からだ。

「ご無沙汰しております。世の中騒がしい折、いかがお過ごしでしょうか。本日、井尻がお伺いするそうですが私も陪席させていただき、是非、お目もじ致したくよろしくお願い申し上げます。追伸 『洗心』を飲みたくなりました」

 <陪席にお目もじに追伸…ときたか。いかにも梶谷らしい>と苦笑いしながらも、梶谷も顔を出すのなら否も応もない。それまでの思案は吹っ飛び、早速お出かけモードとなった。

「これこれは。ご丁寧に恐縮。こんなご時世におまさちゃんに会えるとは望外の喜び。楽しみにしています」。返信をした。すかさず戻ってきた。「有り難いお言葉で…。実は私も6時前後には到着しますが、7時頃には席を外し、大森の『完庶処』にお邪魔し阿部さんと会う予定です。遠野さんもご一緒しませんか。阿部さんのご指名でもあります。ヒ・ミ・ツ」。

これにはビックリ。「了解。喜んで!。では7時頃に自分は“疲れます”のでよろしく」。聡明な梶谷なら、この文面だけで旨く席を立てるはず。梶谷や阿部秘書と会うのは約3ヶ月振り。年甲斐もなくドキドキ、ワクワク。お出かけモードはさらに高まった。

雨でもあり前回と同じように東京駅からタクシーで築地へ。さすがに、この日は「頑鉄」の前に親爺の姿はなかった。で…。そっと中に入ると、すでに横山が到着。親爺と並んで座っていた。もともと少し開けてるし遠野の入店に気付いてないようだ。カウンターには「ザッツ築地」の競馬面が広がれている。忍び寄り「精が出るな」と。

二人はバネ仕掛けの人形みたいに立ち上がり「今晩は。失礼しました」「とのさんも人が悪いなぁ」と。「いやいや。春最後のGⅠで検討にも力が籠ってるなぁと思って。邪魔しちゃ悪いしね」「何言ってんの。今、用意するから席に行っといて」と親爺が指定席を指さした。「とりあえず熱い焙じ茶を一杯ちょうだい」と答え席に向かった。

遠野がいつもの席に陣取ると横山は間隔をとり横並びに。いろんな意味で気配りができるようになった。横山はカウンターから持ってきた麦茶を、遠野は新しい焙じ茶を啜る。「ところで『宝塚記念』の結論は出たかね」。遠野が訊いた時に親爺が「洗心」と枝豆にワカサギの佃煮を運んできた。「えへっ。今日はおまさちゃんが顔を出すらしいし、それまでにとのさんの狙いを教えておいてもらわんと」と言い、酌をする。むろん最後に自分のグラスも満たした。

「この天気だからなぁ。横山君が生まれる前の大昔なら晴雨に拘わらずヒンドスタン、道悪はゲイタイム産駒を、時計のかかる馬場ならチャイナロック、平均的な馬場はソロナウェーにネヴァービートを買っとけば無難だったけど、最近は種牡馬が多すぎて何が何だかサッパリ」。首を振りながらグラスを持ち上げた。続けて「ま、成績で判断するしかないが、道悪ならバゴ産駒クロノジェネシスとハービンジャー産駒のブラストワンピース、大穴のペルシアンナイトってとこかな。親爺は『天皇賞』で儲けさせて貰ったスティッフェリオだろうけど…」と遠野が冷やかす。

「なるほど。良馬場なら?」「それは土曜までに横山君とミッチリ研究するんだろうが、俺は豊ちゃんのキセキに配当次第でサートゥルナーリアとラッキ―ライラックってとこだな」。黙って聞いていた横山は結論を急がず「参考にさせていただきます」と言い、静かに酒を飲む。

一瞬の静寂を破ったのは親爺だ。「持続給付金ってやつは俺達を助ける為じゃなく『電通』や『パソナ』を儲けさせる制度だったとはなぁ。同じ平蔵でも竹中と長谷川では大違い。黒川問題にケリがついたと思ったら今度は前代未聞の“中抜き”が暴かれたし、ヤクザの口入れ屋の方が良心的だよ。100万200万で恩着せがましく大口をたたく“アベゾー”を見てると胸糞が悪くなる。ケッてなもんだ」。「自」はともかく「他」が認める善人の親爺が、これだけ罵るのだから、いかに“アベゾー”があくどいか―。以前から貶していた遠野も啞然呆然だ。河岸での仲間達の窮状を知悉しているからこその憤怒だろう。

「個人的な恨みで溝手を落とすために1億5000万も河井陣営に放るなんて世も末ですよね」と横山。ブスッとしていた親爺も「年が明けてやっと国会に出てきたと思ったら『頂きましたが違法ではありません』とニヤリだもんな。不貞不貞しかったなぁ、あん時は。おまけに辞職しない理由を訊かれて『日本を変えたいからです』と」。親爺、心底から腹に据えかねてるようだ。

「でもよ。考えようによっては有言実行かもな。モリカケ、花見に黒川、コロナに中抜き。そこへもってきての夫婦逮捕。これでアベゾー内閣の支持率もガタ落ち。案里のおかげで日本が変わるかも知れんぞ」。遠野が皮肉っぽくほくそ笑んだ。

「違ぇねぇや。テレビで観る『河井案里!河井案里!河井案里!』の絶叫はただ事じゃねぇし国民の脳裏に焼きついているのは間違いない」「それもプロンプターなしで3度も。間違えなかったところが凄い」。遠野が応じると親爺と横山は大笑い。他に人が居ないから大笑いも許されるが。

「ボチボチ刺し身の用意と針魚(さより)の皮でも炙るか」と親爺が時計を観て、立ち上がったところに梶谷と井尻が入ってきた。

例によって井尻は「お久し振りです」だが、梶谷は靴を脱ぐ直前に遠野と顔を合わすなり「わぁ懐かしい。お元気そうで良かった」とニッコリ。遠野も思わず「相変わらず元気で可愛いね」と。心が和む瞬間でもある。梶谷は小座敷に上がると当たり前のように、遠野の前に座った。「おいおい!正面で大丈夫?」。遠野が慌てた。「遠野さんがお嫌でなければ」「こっちは大歓迎だけど」「それならよろしく」と言い両手を丹念に拭き、「お願いします」とグラスを持ち上げ酌を要求した。

“疲れた”と呟くにはまだまだ時間がある。

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

  • twitter
  • facebook
  • g+
  • line