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競馬コラム

心地好い居酒屋

2020年10月07日(水)更新

心地好い居酒屋:第95話

「お。来た来た。待ってたよ。驚いていたんだ。ほれ、アベゾーから菅に“禅譲”された時、とのさんが『かえって危なっかしい』と心配していたが、人事を見れば、まさにその通り。<畏れ入りました>としか言い様がないな」。親爺がふぅ~と溜め息をついた。

「寒露」(8日)も間近の10月5日。急に冷え込んできて夏服か合着にするかで悩み、ついつい遅くなった遠野。「頑鉄」ではすでに横山が到着していた。

「いやいや、俺の予想以上に酷ぇ内閣と官邸の顔ぶれになっちまったよ。菅は市会議員の頃小さなイベントにも顔を出し、チョコマカしていてな。その時から<小狡そうだな>とは感じていたが、見誤った。“小”どころか“巨だな巨”」。遠野は応え「菅のことはともかく、とりあえず一杯頂戴」と。

すかさず「失礼しました」。横山が徳利を取り上げると「それは横ちゃんが空けて。とのさんは冷酒だから」と親爺が手で制し立ち上がった。横山の前には板ワサと薩摩揚げが載っている。一瞬の間があって横山が口を開いた。「自分も親方も人事の読みに感服していましたが、それ以上に善哉さんの逸話には驚きました。あの執念が社台王国の礎になったわけですね」と納得し残りの熱燗を飲み切ったところに親爺が「得月」とお通しを持って戻ってきた。

「お。来た来た。待ってたよ」。今度は遠野が親爺の最初の言葉を返した。「そういやぁ今年は初めてだな」と嬉しそうな声を出し、舌舐めずりせんばかりにグラスを差し出した。

「さっき電話があって後でおまさちゃんも来るみたいだよ。『得月』の力は強いな」と親爺。もちろん、そのまま座り込み酌を待った。胡瓜と若布とシラスの酢の物のお通しは、吉野自身の好みのようだ。

横山の酌でグラスに口をつけ「やっぱ旨い!」と二人して唸り、遠野が続けた。「善哉さんがノーザンテーストを持ち帰った頃は、他の生産者もノーザンダンサーの事は凄えと思ってはいても、テーストにはそれほど興味はなかったようで」。改めて昔を偲んだ。

「で、善哉さんは合う良い肌馬を研究し『種付け料は安くする。いや要らない。あの肌につけさせてくれ』と他の牧場主に頼んだわけですね」「オレが頼まれた訳じゃないから絶対じゃないけど、善哉さんの口からそれらしきことは直接聞いたし、後に日高、静内、浦河…の牧場の人からも耳にしたしな」。そこまで言ってグラスの酒を飲み干し、新しく届いた茶豆を剥いた。今年最後の茶豆だなと思いながら…。

「その甲斐あってテースト産駒は初年度から活躍馬をだし、サンデーだって初めての産駒が大事ってことで、よほど選んで付けたんでしょうね。初産駒の活躍のおかげで4年目からは種付け料も上がり、それからは高価格を維持、リーディングサイヤーの地位を守り続けたんですから。初年度の種付けが、いかに大切か」

横山の言葉の端端に1100万やら800万など具体的な数字が出ていたし、どうやら先月の話のあと勉強したみたいだ。偉い。

「ところで、横ちゃんご推奨のジェラルディーナは②着。残念だったね。もっとも勝ったのが新馬戦で一緒に走り②着のスパークルだったし、ジェラルは道中掛かりっぱなし。直線は内に切れ、外に縒れでフラフラしてたもんな。5月生まれだし、まだ子供ってことか。いずれにせよ、その2頭の父はモーリスとエピファネイア。生産者にすれば期待が高いんじゃないの」

黙って聞いていた横山は「自分ごときの注目馬を気に掛けてくれてたなんて…」。シンミリなりそうな雰囲気に「いやいや。爺いの土、日のテレビはグリーンチャンネルかメジャーしか見るものがなくてな」。遠野は慌てて手を横に振った。「前走の結果は新馬戦の中身が濃かった事の証明ですし、とすれば当時の勝ち馬サトノルーチェは相当の大物かも知れませんね」「ディープインパクト産駒だしな」

親爺は黙って遣り取りを聞いていたが、和やかな競馬談義にホッとしたようで「とのさんも、まだまだ捨てたもんじゃないな。秋のGⅠも始まったことだし、今週から競馬場に観客も入れるってんだろ。たまには昔みたいに馬券講義を頼むよ。そうだ!天気がいい時に一度、競馬場に行こうよ」。遠野の体調では叶わぬこと。無理を承知であっけらかんと誘う親爺の心根が身に染みる。

「階段は親爺がおぶってくれるならな。非現実の話より、今は『得月』が何本残ってるかが大事だろ」「ヘヘッ。抜かりはないよ。京子ちゃんが、いつ来てもいいだけの数を仕込んでるさ」。親爺が胸を叩くと「京子ちゃん?」。横山が不審気な顔をした。

梶谷と井尻が入って来たのはその時だ。「今晩は」と言い、遠野の前に腰を落ち着け、続けて「お馬さん終わったの。横山君、何かあった?変な顔」と。「いえいえ。十分話させていただきました。大満足です」。“もはやこれまで”の態で残っていた薩摩揚げを口に入れた。

「今日は赤身は当然だけど縞鰺に間八を用意してるけど」。親爺が“ご報告”すると「すべて吉野さんにお任せ。それより早くお願い」と言い「得月」を指さした。「あ、これは気がつきませんで」とは遠野だ。井尻のビールが届いたところで乾杯となった。

「ところで菅の(学術会議)記者会見どうなった?」。遠野が訊く。「記者会見と呼べるかどうかはともかく話になりません。『政府の機関であり、年間約10億円の予算を使っており』とか『推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲してよいのか考えてきた』など、ほざき6人の任命拒否の理由は一切あかされてません」。井尻が飲む手を休めて答えた。と、急に「でも“ふしゅう”と読んだ総理もいることだし、総理ったってあんなもんでしょ」。梶谷がチロリ舌を覗かせ微笑んだ。

「2億もの金を使って大勲位の葬儀をするのは、それだけの功績があり、後世にいい影響を残したからだろ。“温故知新”てのを菅は知らんのか。あの中曽根が『任命は形式的なもの』と断言してるんだ。つまり、総理大臣に任命権はあっても拒否権はないんだ。それを理由も明示せず拒否とは傲慢過ぎる。な、とのさん」。親爺、本気で怒っている。

「目が笑ってない陰湿、陰険な菅のことだから拒否理由は今から作るかも。加計問題の時、前川氏のスキャンダルを探したように官邸警察を使って6人のプライベートを調べ上げるんじゃない?。そんな事をしかねない菅と官邸だから危なっかしいんだ」

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源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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