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競馬コラム

心地好い居酒屋

2021年02月10日(水)更新

心地好い居酒屋:第100話

東京に春一番が吹き荒れたのが4日。そして3日後の日曜はポカポカ陽気で汗ばむほどだったのに翌月曜日8日はまたまた冬に逆戻り。少しでも歩くのは面倒で「頑鉄」までタクシーを乗り付けた遠野。玄関を開けると「お疲れ」「お先に」の声が飛んできた。 「寒っむいなぁ」の常套句で指定席に座ると「今、始めたばっか。駆けつけ3杯だよ、とのさん!」と徳利を持ち上げた。


「それにしても森ってのはふざけた野郎だな」。親爺が酌をしながら憤慨する。「今さら何を」と遠野は苦笑い。酒を一飲みし猪口を差し出した。「“脳味噌は鮫で心臓は蚤”ってのは昔から有名だろ。そんな奴を周りがチヤホヤし、実力を過大評価、本人も目立ちたがりで自信過剰だから調子に乗るんだ」。遠野が“ムキになるな”とばかりに手を振る。


「なるほど。謝罪会見で一応詫びをいれながら『辞任する考えはありません』と平然と言い、続けて『老害が粗大ゴミになったのかもいれませんから、そしたら掃いてもらえばいいんじゃないですか』ちゅうのは弱気の裏返しで“俺の首を取れる者が居るなら取ってみろ”ということか」。親爺、納得したのか、やっと手酌で酒を注いだ。


「ついでだから言うけど、女性蔑視はもちろんだが、聞き捨てならないのは『コロナがどんな形でも東京五輪は開催する』だな。感染者40万人、死者6000人超の中での発言はひどい。欧米なんて阿鼻叫喚状態だしな。ま、強きを助け弱きを挫くのがマスコミだから落ち目の森も“皆んなで叩けば怖くない”で世界の声を率先して報道。これを材料、アリバイにして盛り上がらせてるから辞任するんじゃないの」。遠野が結論づけて海鼠(なまこ)酢に箸を付けた。


「でも“余人をもって代えがたい”んじゃないんですか?誰かが言ってましたよ」。黙って聞いていた横山が話をブリ返した。


「そういやぁ去年の今頃も“余人をもって代えがたい”人間が居たなぁ」。親爺が呟くと「確かに。結局、そういう事をホザく奴は自分にとって利用価値があるからで、世間、一般大衆とは感覚がズレてるんだよ。森はともかく、あの黒川が官房長、事務次官、東京高検の検事長を務めている間にアベゾーやガースーの仲間がどれだけ助かったことか…。モリカケ、桜に下村、菅原。古くは小渕。そうそう甘利なんてのは秘書も含めポッポに入れたのは歴然なのに“お咎めなし”。私利私欲に塗れた連中にとっては、まさしく余人をもって代え難かっただろうな」。遠野が一気に喋って酒、そして水を飲み独活(うど)の酢味噌和えを口に入れた。目下の話題にふさわしくホロ苦い。ただ香りには春も漂った。


「五輪予算も8000億程度だったのが3兆円に膨れあがったってんだから森のおかげで潤った人間も多いんだろうなぁ。五輪利権は強行派で調整型の森が居ればこそ。そいつらにすれば、そりゃあ必要だわな」と親爺。


「ところで緊急事態宣言が延長されたけど補償金はどうなってんの。焼け太り?」。遠野が冷やかすと「よく分からん。いつものように(税理士)城田さんに任せているし。でもよぉ。あの罰則だの罰金てのにはアッタマ来るよな。税金使って金とウイルスをバラ撒き感染を拡大させた張本人はお咎めなし。いや、それどころか失政を認めず、詫びもしない。ホレ!論語だったっけ。京子ちゃんとこの社長の言葉<過ちて改めざる これを過ちという>。ガースーに聞かせてやりたいよ」


「そうだな。それに対し<小人の過つや 必ず文(かざ)る>か。社長に伝えてと、京子ちゃんに頼んだけど…。あれから京子ちゃんとも、なかなか会えなくなって」。芯から遠野が寂しがった。コロナを憎む。


「京子ちゃん?」。聞いていいのかどうか迷った風で横山が遠野と親爺を見遣った。「アイドルだよ」「マドンナ!」。どっちがどうか不明だが同時に答えた。予期せぬ語気の強さに横山は「失礼しました」。とりあえず頭を下げ「余人をもって代え難しですか?」「いや、おまさちゃんがいる」。これも同時の返答だった。そこへ鰤のたたきが届き空気も和んだ。


「“余人”の話をすれば、今、話題になっているガースーの倅と総務官僚との関係だが、倅が務める「東北新社」にすれば、接待には余人をもって代え難い人間だろ。あれがガースーの倅じゃなければ“会食自粛”の日々に公務員倫理規定に反する料亭接待なんて受けないはず。本来ならガースーが倅を怒鳴り散らし、無理強い(でもないか)された官僚と国民に詫び、そして総理の職を辞してもおかしくない事案。それが国会で『今の私の長男と結びつけるというのはいくらなんでもおかしいのではないでしょうか?私と完全に別人格ですからね』と。これには吃驚仰天。その後の話も論理は破綻してるし、まさしく、とのさんの言う“小人の過つや 必ず文る”だな」。親爺、一席打(ぶ)つと、自らうんうんと頷き酒を飲み干した。それから、新しい燗を取りに行き2合徳利2本持って戻ってきた。


「ホイ!横ちゃん空けて」と促し酌をする。「有り難うございます」と受け「そうですよね。秘書をやらせてて“別人格”はないですよ。騎手・調教師など厩舎関係者は家族も別人格なのに馬券は買えません」「ちょっと意味合いは違うけどな。それと、秘書じゃなく大臣秘書官。これは普通の秘書より格や力が一枚も二枚も上。放送権を所管する総務大臣の秘書官経験者で現総理の倅の誘いを断れるような官僚がいたら日本はもっといい政治でいい国になっていたはず」。秘書経験のある遠野の言葉だけに真実味がある。


「あのぉ~。余人の続きいいですか」。おずおずと横山が話しかけてきた。またまた二人して「どうぞ」。耳を傾け手は酌をしあっている。


「ディープインパクトにとって武豊は余人をもって代え難き騎手だと思いますが」 「さすが横ちゃん。“余人をもって代え難し”の人間は確かに居る。ディープは武豊以外じゃ伝説の馬にはなれなかった。良く言った。偉い」。親爺、ハタと膝を打ち感嘆の声を上げた。


「今週は東京で『共同通信杯』に『クイーンC』。西では『京都記念』か。どうなんだろね」。親爺が遠野に問いかける。「去年の3歳クラシックは『ノーザン』の出番なし。それだけに<今年は>の気持ちじゃない。その証拠に、これまでの3歳重賞勝ちはすべて『ノーザン絡み』だし、馬券買うなら少なくとも3歳戦は『ノーザン』は外せないな。嫌でも」


「やっぱりなぁ。『フェブラリーS』は」「古馬ならつけいる隙もあるし、今んところ俺はアルクトスかな。直前に横山君と検討してよ」


爺い二人の会話に口を出さない横山は雰囲気を弁(わきま)えているようだ。


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源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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