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競馬コラム

心地好い居酒屋

2021年10月27日(水)更新

心地好い居酒屋:第110話

驚異的な、いや数字のマジックじゃないかと疑われるような感染者激減。おかげで飲食店の営業時間の短縮解除は当たり前のように受け止められた10月25日。シリが切られちゃないのだから、遠野もゆっくり出掛ければいいものを、結局は慣れなのか、それとも“遅くには雨”の予報を気にしてか、いつも通り5時には「頑鉄」に到着した。


8日の寒露を経て23日の霜降―。なるほど24節気ごとの寒さも増し、12月22日の冬至までは陽が短くなる一方。辺りが真っ暗なだけに、それぞれの飲み屋の看板が引き立つ。<こういう状況が続けば…>と願いつつドアを開けると、なんと真ん前の席には例のゲーム屋が5人陣取り宴会が始まっていた。“とりあえずのビール”みたいで、来たばかりのようだ。それにしても早い。


「ご無沙汰してます」「お久し振りです」「お元気そうで」と黙礼だけでなく、珍しく陽気な挨拶をしてきた。<連中も人恋しかったんだな>。思わず笑みが浮かび「皆さんもお変わりなさそうで」と返礼。頭を下げて自席に向かった。ゲーム屋さんとの遣り取りを聞いていたのだろう、指定席で待っていた横山が立ち上がり「お疲れさまです」と一礼。「おいおい。稼業じゃあるまいし、堅苦しくビシッと言うじゃないよ」。苦笑いしながら窘(たしな)めた。


「ハハッ。前回、俺が『だから、とのさんだよ』と応えたのをどう解釈したのか、えれぇ緊張しちゃって」と言いながらゲーム屋さんの席に酒と料理を運んでいる。


入れ替わりに仲居のき~ちゃんが「いらっしゃませ」とニッコリし「得月」とグラスにお通しを置いていった。板ワサと塩辛だ。二人が箸を付ける前に当然のように親爺が戻ってきて、框に腰を落としながら「得月」の瓶を持ち上げ、二人に勧める。「やっと手に入ったか」。酌を受けながら遠野が迂闊にも舌舐めずりし、「親爺も」と瓶を取り上げた。


軽くグラスを上げ、一斉に口を付けた。「ところで親爺!信じる者は救われるだな。おめでとう!」。親爺、ヘッてな顔してる。「マカヒキだよマカヒキ。『京都大賞典』取ったんだろ。引退するまで買い続けると宣言してたもんなぁ」。改めて遠野が感心する。「清水さん最後の『ダービー予想』が『マカヒキ 一強』だからな。いわばマカヒキは清水さんの形見みたいなもの。ほれ、この間“月命日”のお詣りしたじゃん。で、俺に儲けさせてくれたのかも知れん。あの人も律儀だったしなぁ」


「単勝で3200円、馬連が1万900円。馬単が2万8000円ですからねぇ」「ほらほら。人の懐を読むんじゃない。横山クン」。冗談交じりに囁くと「いいんだ、いいんだ。俺も横ちゃんには清水さんを讃え威張ったし…」


なかなか微笑ましい関係になって遠野も嬉しい限りだ。「だけどよ、横ちゃんも凄いぞ。“月命日”のあの日、『だから、とのさんなんだよ』のきっかけになったジェラルなんちゃら(ディーナ)を覚えていて『秋華賞』の資金作りとばかりに10Rの『西宮S」で単勝と3連単をゲットしたんだぞ。もっとも肝腎な『秋華賞』は同じ福永(アンドヴァラナウト)から買って溶けちゃったけどな」


落ちまで付ける所が親爺らしい。


「親爺のマカヒキといい、横山君のジェラルディーナといい“これぞ”と思った馬を狙い続けるのも一つの楽しみ。素質を見込んだ通り『双葉』では芳しくなかったが間違いなく『栴檀』だったな。いかった、いかった」。最後に北海道弁で茶化すと横山もグスッと笑った。酒のせいもあって緊張も解(ほぐ)れたようだ。


「それより『菊花賞』はどうした。俺と横ちゃんはステラヴェローチェで撃沈さ。でも勝ったのが岡田スタッド生産のタイトルホルダーなら納得。ブリーダーの岡田牧雄代表が「亡き兄も喜んでくれているはず」と声を弾ませていたが、その兄・繁幸氏は春に急逝。その無念を晴らすかのようにビッグレッドファーム→ラフィアンのユーバーレーベンが『オークス』勝ち。兄弟揃ってクラシック馬の生産者になったんだから。日高、浦河の牧場が頑張ってくれれば、競馬ももっと面白くなる、ってなもんだ。“一強はマカヒキ”だけで十分」客が入るようになり、酒も入り、おまけに横山から知識も入り上機嫌の親爺が能書きを垂れた。


「確かに―。馬券が外れ9頭出しのノーザン軍団に上位を独占されたんじゃ溜め息しか出んわな。“下手な鉄砲 数打ちゃ当たる”というがSAT所属のスナイパーを9人(頭)も抱えていながら逃亡者を見逃しちまうんだから……。やっぱ、競馬は面白いわ」と応え塩辛を口に入れた。


「ん。このアオリ(烏賊)はイケル。見事な白さだし、色のバランスもいい。吉野君?」。遠野が問うと「ありがとな。今から刺し身と鰈の焼きを持ってくるけど、吉野の塩辛を褒めてくれた方が嬉しいね」と殊勝な言葉を吐き「で『菊花賞』は?」と。そこそこにしつこい。


「森山さんの三回忌までは『菊花賞』は“ご仏前”でカブ馬券と決めているから自分のは買わないの!残念ながら今年も線香を送っただけになったけど」


「いっけねぇ。俺としたことが」。忘れていた親爺が自らのハゲ頭を叩き「すまん」と。「なぁ~んも。残された連中も最近は来てないみたいだし、親爺がいちいち謝ることでもないさ。もっとも、自分の馬券を買っていたらカブ馬券より被害は大きかったはず。三回忌のおかげで助かったよ」「なるほど。物は考えようだな」。うんうん、と頷きながらグラスを傾けた。


話が切れたのを見計らって横山が口を開いた。「あのぉ~。『天皇賞』は?」「16頭中7頭がノーザンで兄弟での生産馬は10頭。さすがに逆らえないけど福永のコントレイルは絡ませたいな。後、いろいろ考えても仕方ないし、今んところはリィーディング上位6人の争いと見てるんだが…。これじゃあ面白くも何ともないか」。自分で言いながら首を振る遠野だ。


「日曜日は選挙の方が面白いんでねぇか。市長選で横浜市の民度は分かったが選挙区民の民度はどうかな」と親爺。「昼は競馬で夜は選挙か。楽しみではあるな。総理退陣を表明したことで菅への同情票が増え持ち直したのは確かだが、選挙ポスターに“街頭演説会”の時間と場所を告知してるのにはビックリ。危機感の表れだな。港南区、南区、西区民の審判やいかに!」

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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