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競馬コラム

心地好い居酒屋

2022年09月21日(水)更新

心地好い居酒屋:第123話

台風一過――。の好天気とはいかず、むしろ小雨混じりで肌寒かった。それでも籠もりっぱなしだった遠野は鬱々とした気分を晴らそうと、連休明けの21日、クリニック経由で「頑鉄」に向かった。


親爺からは「顔を出してくれるのは願ったり叶ったりだが天気が天気だし、今日はお薦め品はないけど……」と釘をさされたが「金目か銀ダラの粕漬けにお新香があれば十分。『得月』が入ったんだろ?それに今朝、浦河から初物の新イクラが届いたし、それを持ってくよ。冷凍だから保冷バッグに入れとけば、そっちに着く頃が食べ頃じゃないか」「へへっ。じゃあ楽しみにして待ってる」。そんな会話があった。


4時の到着だったのだが、案の定というか、すでに横山は控えていた。互いに挨拶を済ませ、遠野が席に腰を落とすや否や「先日は申し訳ありませんでした」。土下座風に正座して頭を下げた。「おいおい、急に何だ何だ」。遠野はビックリ、お絞りを落としそうになった。「生意気に『札幌2歳S』ではフェアエールングを推奨しちゃいまして」「そんな昔の話で謝られても困るよ。第一、俺が“何がいい?”と訊いたんだし、それに…」と言って手を拭い親爺が持ってきた焙じ茶を啜った。横山は不安げに怪訝そうな顔で次の言葉を待っている。


「横山君は慧眼だよ慧眼。土曜日の『2歳S』は“ちっ”だったが日曜の『すずらん賞』で丹内=マイネルのコスモなんちゃらの単勝を試しに買って、ちゃんと補填できたんだ。心配しなさんな」「えっ!コスモイグローブを!。凄い、というか有り難うございます。確か配当は4,000円ちょっとでしたね」。ほっとした様子だ。


「俺たちゃ“ケン”だったけど、とのさんが取ったんなら、横ちゃんも丹内を推奨した甲斐があるってもんだ」。親爺が結論を出し「じゃあ~ん」と言い「得月」の大吟醸を持ち上げ「はい!とのさん!まずは一献」と。遠野は水で口を漱ぎ、軽く一口、そして二口と。「うんめ~」。唸った後「ほい、横山君も。はい親爺も…。あ、いや親爺はもう飲んだか」。遠野が冷やかすと「と、とんでもない。『得月』はとのさんとおまさちゃんが先に飲まんことには」と親爺。「そういえば、さっき親方が“梶谷さんが後からくる”ような事言ってましたが、このお酒ですか」と横山もニッコリ。


この日は予約はゼロで仲居の木村さんは休みらしく、3人が喋っている内に板前の吉野が「いい塩梅の解凍です」と言って小分けにしたイクラを運んできた。「良かったら吉野君も食ったら」「はい具合を確かめるついでにチョッピリ。旨いっす。梶谷さんの分を残して、自分ももう少し頂こうかな、と」「吉野君に喜んで貰えたのならイクラも本望だろ。それにおまさちゃんにまで気が回るとは…。偉い!」「いえいえ。あの人は美味しい物には目がありませんから…。自分が絡んでいてイクラが無くなっていたら叱られます。怖いです」と。


「分かった。来たら伝える」。遠野が応えると「勘弁して下さい。本当に怖いんですから」。遠野と親爺は大笑いだが、横山は納得気に“うんうん”と頷いている。


「食い物の恨みは怖いってのは冗談でも済まされるが、安倍を撃った山上っての恨みは半端なかったんだろうな。いや、別に弁護してる訳じゃねぇけど、岸田が“国葬”の理由の一つに挙げているのは気にいらん。<民主主義の根幹を揺るがす暴挙>とほざいているが、何でもかんでも“閣議”で決めてしまう方が民主主義の根幹を揺るがす暴挙だろ!な、とのさん。釈迦に説法だが、たかが居酒屋の親爺にここまで言わせるとはなぁ」


「いやいや。居酒屋と理髪店の親爺は世間を知っていて真っ当な人が多い。俺が通っている理髪店の親爺は<長いのが偉いんならパンツじゃなく六尺を締めとけ>と怒っていたぞ。今まで2ヶ月に3回、あるいは毎月来てた人も3ヶ月に2回とか2ヶ月1回に減った。安倍の8年間で景気が悪くなった。嘆くことしきりだよ」


「理髪店は個人と接する機会が多いから民意を肌で感じているかも。要するに国葬の根拠は皆無ってことだろ。前にもとのさんとは話したけど、いの一番の7月15日に国葬への世論誘導の放送をした“官邸さまのNHK”でさえも最近の調査じゃあ国葬賛成は32%で反対が57%らしいじゃん。昨日のエリザベス女王の葬儀の様子と雰囲気を見る限り安倍の国葬は惨めな式典…。国葬どころか国辱もんになりそうだな」


「得意の“サクラ”を利用(動員)してもあれだけの人は集まらんし、自民党議員は統一教会とズブズブ。どうせなら自民党と統一教会の合同葬にすりゃいいんだ。自民党には今年も血税から150億円もの政党助成金が入るし、教会も唸るほどの献金を集めたんだろう。そうすれば余分な税金を使う必要はないし、献花台近くには信者が徹夜で列をなすかも。テレビも実況のし甲斐があるんじゃねぇ」


「そのテレビもボツボツ統一教会論争に幕を引きたいみたいだな。下村の関与はもちろん、教育や政策に口を出しているかどうかの検証もせず“大事なのは今後。教会とどう関わるか、被害者救済を急ぐべきです”なんて宣う幇間評論家の出番が増えて来そうな気がして」


「あのぉ~。お二方の仰る通りで、自分も親方にいろいろと教わっていますが、今の“六尺”ってのは?」。スマホ操作なしで恐る恐る横山が訊いてきた。「アハッ。横ちゃんの爺さんあたりは締めてたかもしれんな。褌だよ褌の長さ。六尺だから約180センチ」「破れ褌 将棋の駒よ 角と思たら金が出た なんてね」。梶谷が居たらとても言えたことじゃない。まだ来ないが怖い怖い。


横山が理解したのかどうか分からない。が「かつては4,000㍍の『日本最長距離S』てのがありましたが、今は3,600㍍の『ステイヤーズS』が最長距離。競馬でいえば、このレースを勝った馬が1番強くて価値があるってことになります。長ければいいってもんじゃないですよね」


“破れ褌”はともかくどうやら理解しているようだ。いずれにせよスマホを弄(いじ)れば済むことだ。


源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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