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競馬コラム

心地好い居酒屋

2023年01月18日(水)更新

心地好い居酒屋:第127話

“善は急げ”で“後悔先に立たず”――。遠野は年明け早々から感じとった。というのも、年始の挨拶とともに3連休明けの10日にクリニックに行く積もりだったのだが、馬券疲れもあって翌週、つまり16日に延ばしたのだ。<正月明けの3連休の後では混むに違いない。まだ薬はあるし、発熱外来も多いだろうから>と自分に都合良く解釈して……。


 しかし天は許してくれなかった。クリニックはもちろん「頑鉄」の親爺とも約束していたことだし、それこそ“尾生の信”。今冬一番の寒さと冷たい雨の中、出掛ける羽目になった。罰は続くものでクリニックも患者で溢れんばかり。こんな盛況(?)は決して喜ばしくはない。コロナ感染者とインフルのダブル増を、まさに目の当たりにした。と同時に行政の無策、愚策、害策に憤った。


そんなこんなで時間もかかり「頑鉄」に到着したのは7時前。驚いたことに店もまた満員。こちらは嬉しい盛況だ。例のゲーム屋さんに加え税理士の城田さんとその連れが。奥の指定席には横山は当然ながら井尻に刈部。そして梶谷もすでに居た。遅くはなったが顔見知りと新年の挨拶ができて、結局は<やはり来て良かった>と。タクシーの中から電話していたおかげで、着席するや否や暖かいお絞りを渡され、息つく間もなく新しい熱燗が。


早速、梶谷が「お久し振りです。どうぞ」。ニコッとして徳利を持ち上げた。全員が揃ったところで井尻の「お先でした。今年もよろしくお願いします」の言葉で、それぞれの飲み物を掲げた。


遠野が来るまでに他の客とは挨拶が済んでいたのだろう。親爺も半身で座り込んでいて、「とのさんに聞いてもらいたくてよ~」「ん?昨日の最終で聖奈ちゃんが勝ったこと?パシュロとイーガンの騎乗停止?規制なし、やりたい放題の出稼ぎジョッキーといとも簡単に免許を交付する競馬会にはあったま来るよな」。酒を飲み干し、梶谷の酌を受けながら応える。「ちゃうちゃう。聖奈ちゃんは良かった良かっただし、奴らの自由行動と審議なしの制裁には不満は大いにあるけど……」。口籠もった後「俺が言いたかったのは“瓢箪から駒”みたいに“菅の口から正論”がでるとはなぁ。世の中変われば変わるもんだってこと」。自分で言って自分で頷いている。「軍拡のための増税と派閥会長は辞めるべきっていう岸田批判か」と納得。お通しの笹かまぼこに山葵を盛り、続けて「国民から見ても正論だし、まともな国会議員なら自民党の奴だってそう思うさ」


「そうだろ。俺も菅の肩を持つ訳じゃないがマスコミの報道には腹が立ってな。ほとんどのマスコミが『内紛勃発』『菅の真意は』とか『背景は』なんてことを詮索するばっかり。背景が何であろうと、あの菅発言に添った報道をすべきじゃないか。政治記者も評論家ってのも<内紛、リベンジ、再登板狙い>だのしたり顔で喋ってるだけ。何がジャーナリストだ。昔、とのさんが『電波芸者が廊下トンビよろしくテレビ局を梯子して、と嘆いていたが、大宅壮一と松本清張の『いずれテレビによって一億総白痴化に』の予言が当たったな」


親爺憤慨の長口舌が終わると、遠野と二人差しつ差されつで酒を飲み、唐墨を食べていた梶谷が「廊下トンビって?」と遠野に顔を向けた。


「俺が秘書をしてる頃は議員会館のセキュリティも甘くて……。一度入館すると、どの議員の部屋にも行けてね。でもって利権や情報を求めて廊下を歩き、あっちこっちの部屋を訪ね回る奴のこと。新聞記者や業界紙、それに秘書も自由だから俺も先輩秘書や大親分から『廊下トンビにはなるなよ』と釘を刺されたんだ。ま、今考えるといい経験になったね」


「ふ~ん。そうなんだ。その話を念頭にワイドショーなんか観ると面白いかも。確かに同じ人間が色んな局の番組に出てるわね。でも、結局は無難な発言する人ばっかしみたい。。もっと前川さん(元・文部次官)みたいな人を起用してくれればいいのに」と言って猪口を差し出した。


「ところで井尻さぁ。“瓢箪から駒が出る”ってのは知ってるよなぁ」。遠野が声を掛けると「あり得ないことが起きる、とか以外の所から以外な者が飛び出すことでしょ」。さすがにムッとした口振りで答え、残っていたビールを一気飲みした。そもそも“知ったかさん”だ。分かって訊ねたのだが、遠野も意地悪だ。質問を続けた。「じゃあ、どうして瓢箪なの?」「そ、それは…」。言葉に詰まり刈部からの酌を途中で制した。他の連中は興味津々で遣り取りを聞いていたが親爺は含み笑いをしている。


「親爺!井尻に教えてやんなよ」。遠野が言うと「江戸初期、大阪城が落城の後、主立った大名が集まった時、家康が一升は入ろうかと思われる大きな瓢箪に酒を満たし『誰ぞ飲み干せる者は居るか』と声を掛けたところ、仙台藩主・伊達政宗が『畏れながらら』とにじり寄りズシリとした瓢箪を受け取るや、ゴクンゴクンと喉を鳴らし一飲みで空にしたそうな」。いつの間にか講釈師の口調になり、自分も目の前の酒を飲み干した。


「家康は大喜びで『さすが伊達どの。見事じゃあ。褒美を渡そう。何でも申せ』『では上様の栗毛の駿馬を頂戴致したく』と。家康が大事にしていた自慢の愛馬だったが“武士に二言はなし”。ましてや千成瓢箪は秀吉の馬印。それを一飲みにした政宗に感心もし、自分が亡くなった後の恐怖も覚えた。潔く譲ったらしい。ま、こんなとこかな」。自慢気に説明をし、皆を見渡した。


梶谷を含め親爺の物知りに吃驚仰天。拍手せんばかりの態度と表情になった。そして井尻が「畏れ入りました」と頭を下げれば梶谷は「今の政治家は二言どころか舌が二枚も三枚も。いい加減に仕舞い(四枚)にして欲しい。おじさんの話を聞かせてやってよ」


「アハッ。これは清水さんの受け売り。何年か前に『東スポ』の『馬単三國志』で書いてたんだ」。最後に白状した。「清水さんて、凄い人だったんですねぇ。一度お会いしたかったなぁ」と横山。競馬にあまり興味はない刈部は梶谷の発言を承け「岸田ってのは聞きしにまさる権力の権化ですね。与党はもともと国会より閣議を優先し、世論無視でしたが今度は閣議より独断専行。『トップ会談で安全保障を決めた』と。恥じるどころか自慢タラタラ。大統領気分でいるのだからアングリです」


「アベゾーが居なくなって頭の重しがとれて舞い上がってるんじゃない」。梶谷にかかれば安倍はいつまで経っても“信”がないようだ。


「先週さぼった俺みたいに天罰が降るさ。我慢我慢」。遠野の独り言だ。


源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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