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競馬コラム

心地好い居酒屋

2023年03月15日(水)更新

心地好い居酒屋:第129話

「頑鉄」の入り口は相変わらず“換気”のために僅かな隙間がある。そりゃあそうだ。たった一日で空気が浄化されるはずもなく、増してコロナウィルスが雲散霧消したわけでもない。国は今日13日から平常を取り戻そうとの意向だが、親爺は自分が納得するまでは今のままで営業するようだ。


よしよしと遠野は頷き、マスクを外し、満席の先客に挨拶しながら席に着くと親爺が「どうだった?」と。「チャラだな。久し振りに出稼ぎジョッキーは不在。目に余る乱暴な騎乗もなかったし…。ま、ただでスリルを味わい楽しんだのだから儲けたのかも」。遠野が応じると、横山も「やっと正常に戻りましたね」と。「ちゃうちゃう。マスクだよマスク。電車やタクシーの様子を訊いたの!」。手を振りながら親爺が言う。


「そっちか。それほど感じなかったなぁ。タクシーの運転手さんはもちろん、電車の客もほとんどマスク着用。病院も一応検温しての受付で、患者も全員マスク着用。そう簡単にお上の言いなりに“右へ倣え”とはならんよ」


「そうだよなぁ。良かった良かった。コロナ前からとのさんは人混みや排ガスが多い所ではマスクしていたし…。それが心配で」「ありがとね。親爺のおかげで若い美女と一緒に旨い酒と肴が食え“忘年の交”も楽しめて」と遠野。親爺の心配にあさっての返答をしてしまい神妙な顔つきだ。


“情けは人のためならず”と言うが「山の日」が施行された翌年の8月だったか、その時は<日程的にも商売にならない>と「頑鉄」は長期休日。その間に店内改装、煙草の煙と絶縁するため遠野達の定席の脇を境に強烈な換気装置を施したのだ。その冬、気胸に加え呼吸困難に陥る肺気腫増悪を患い入院を余儀なくされた遠野を慮っての工事は間違いない。そして3年間に渡る疫病コロナ。どの店も戦々恐々、客も不安だらけだったのだが<あの店の換気は万全>との評判をとり、しかも「食べログ」などのポイント商法は無視、逆に<前日までの予約必須>とした。おかげで酒肴の旨さは当然ながら、安全性の信頼も得て今日の繁盛に繋がっている。


<結構なことだ>。蕗の煮物に続きホタル(烏賊)の酢味噌和えを食し、「洗心」を飲みながら思いに耽った。そんな感傷的な雰囲気を親爺は察した。


「俺もそうだけど、ここに居る横ちゃんを始め“知ったかさん”に“おまさちゃん”…『ザッツ』の連中、それより何より“京子ちゃん”もとのさんが元気でいることを願ってるんだから」


「京子ちゃんか。会いたいなぁ。ありがとね」「ほら!またまた他人行儀に。駄目だよ。この間の国会で辻元清美から『総理!<さまざまな>との言葉は使わないで下さいね』と皮肉られていたが、それでも<さまざまな>が出てくるんだからまさに“蒟蒻問答”。信念も何もない岸田みたいになっちゃうよ」


「それだけは勘弁。岸田があれほど権力の権化でヘタレとは思わなかったなぁ。岸田の『座右の銘』は<春風接人>らしいが、その対が<秋霜自粛>ってことを分かってんのかねぇ」


「あいつに期待するだけ無駄。腹が立つだけ。仮に<秋霜自粛>を知ってたとしても行動が伴わないだろうしな」


横山は酒を飲む手を止め二人の遣り取りを聞いていたが、首を捻りながら恐る恐る「あの~」と声を潜め「<春風駘蕩 秋霜烈日>なら理解してますが…」「ごめんごめん。まぁ似たようなもんだ。暇な時に得意のスマホで検索してみてよ」


親爺と横山の信頼関係も素晴らしい。親爺の言われたままにグラスを置きスマホを取りだそうとしたところに梶谷が入ってきた。軽く会釈された奥のゲーム屋さんに市場の人間、最近顔を出すようになったという若い銀行員の視線が一点に集中された。遠野にとって気分のいい瞬間である。横山は慌ててスマホを仕舞い「お疲れさまです」。借りてきた猫に。


梶谷が遠野の隣に腰を下ろすと親爺が酌をし、皆でグラスを持ち上げると一飲み。「やはり美味しい」と梶谷はうっとり。親爺は「刺し身もできた頃だな。今日は鮃と鮪で焼きは鰆にしたから」と言って立ち上がった。


「ねぇねぇ。岸田の始球式見ました?昔、野球部だったという触れ込みでしたが、砲丸投げみたいに押し出す投げ方で、笑っちゃいました。“嘘つきは政治家の始まり”ですが野球部も眉唾ですよ。それはともかく翌日は福島県民の前で『皆さんの声に耳を傾けながら』なんちゃらで中身はなし。あの馬ヅラだけに<馬耳東風>そのもの。聞いたことは右から左に吹き抜けるだけ。あ~もう嫌になっちゃいました」


可愛い顔と愛らしいおちょぼ口からこんな辛辣な言葉が出てくるとは。これには刺し身を運んできた親爺もビックリ。「馬ヅラの<馬耳東風>ねぇ。さすがおまさちゃん。いやね、今まで岸田を魚にしていたんだ。仲間が増えて嬉しいよ」「じゃあ早くお酒を」とグラスを差し出す。やれやれ今夜は長くなりそうだぞ。


「その始球式だけど全メディアがWBCを大盛り上げ。おかげで俄ファンも増えて全国民が注目してるもんな。目立って政権の浮揚に利用したいだけだろ」


「そういやぁオリンピックの前は大谷翔平がホームランを連発。菊池雄星との花巻東対決が楽しみだったのにNHKのBSはスルー。菅の意を汲んでかオリンピック関連の再放送を流していたもんな。あん時ゃとのさんも相当怒ってたなぁ」


「今も似たようなもんだ。公式の『行政文書が偽造だ』なんて抜かす放送法問題の高市や安倍に関わるモリカケや統一教会もそっちのけ。マスクの右向け右じゃないがテレビなんて何処もかしこもWBC。メディアの矜持ってのは何処いったんだ」


「<紅顔の美少年>は天草四郎時貞だが高市は<厚顔の傾城>ってとこか。“こうがん”も“けいせい”も色んな意味があるからな横ちゃん」。親爺巧いことを言う。


「支持率が30~40の間。麻生の末期が同じくらいの数字の頃。浮揚を狙ってか目立つ場所、なんと2009年の『ダービー』のプレゼンターとして突如現れてな。天も怒ったのか午後に一天にわかにかき曇り驟雨豪雨。不良馬場になっちまって」


サプライズも空しく暮れの総選挙では麻生自民党が大敗。民主政権の誕生となったが、これがまた酷かった。春の統一選が終わるまでは統一教会問題も結論は出さないだろうし、自助→共助までで公助はなし。公圧に唯々諾々と従い自己責任で生きていくしかない。

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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