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競馬コラム

心地好い居酒屋

2023年04月19日(水)更新

心地好い居酒屋:第131話

運命の再会――。とはちとオーバーだが、阿部秘書の来店は4月18日となった。梶谷曰く「決まってからはソワソワ浮き浮き状態」で「皐月賞」の検討もそこそこに店の点検や指定席の清掃に大わらわ。メニューが最大の肝で先週は3回も電話相談を受けたとか。


約束は6時。遠野とて居ても立ってもいられず昼過ぎからテレビを見、時計を確かめ天気予報や交通情報を何度も確認…。<今日に限ってなぜ時間が経つのが遅いのか>と。イライラしながらも頃や良し、と家を出たのは4時半過ぎ。これなら「頑鉄」到着予定は5時45分~50分。遅れるのは論外だが、かといってあまり早くても“浮き浮き”の親爺から<イレ込んでるなぁとのさんも>と冷やかされるのが癪…。結論は年寄り二人は似たような心境だったってこと。


平成通りでタクシーを降り時計を見ながら歩く。「頑鉄」までは200㍍ほど。平成通りとは逆、新大橋通りからくるはずの美女二人と遭遇したら…なんて淡い期待を抱きながら歩いたってんだから自分でも吃驚。それこそ親爺にからかわれるのが落ち。当然のように期待は泡のように消えたのだが…。


玄関を開け店に入って魂消た。美女二人が指定席に着き、親爺も上がり框に腰を下ろしお茶か何かを前に談笑していたのだ。壁側に鎮座していた梶谷が手を挙げ「やぁ!」と。「ごめんごめん。お待たせして」。頭を下げながら梶谷の後ろを通り隣に座ると、梶谷は茶目っ気タップリに「妙齢な美女二人を10分も待たせるなんてさすが遠野さん。大物です。ね!阿部ちゃん」。阿部秘書は口に手を添え「ウフッ」と笑い「ご無沙汰してます」。遠野がドギマギしながらも「こちらこそ」と応えるしかない。親爺は手を叩いて喜んでいる。「親爺もグルか?」「発案はおまさちゃん。遠野さんが何時頃くるか当てっこしようと」「ふ~ん。じゃあ5時には集合して刺し身より先にツマを楽しんでいたわけだ。で、正解は誰?」。


お絞りで手を拭きながら阿部秘書を正面から見る。記憶を手繰る。初対面が6年前の4月14日で最後に会ったのは3年前の3月。<綺麗だ。可愛い。女性らしい嫋やかさを漂わせながら、凜とした芯の強さを感じさせる>。全く変わってない。


「おじさんは40分以上前を予想でしたので論外、私が10分~15分前。梶がズバリで10分前でした」「遠野さんの考えは大凡分かるもん。長くて密ですから」。梶谷が言って舌をチロリ覗かせた。同僚で梶谷にゾッコンの刈田が耳にしたら腰を抜かすような発言ではある。「長さなら俺は30年以上。競馬仲間で密でもあるし分かってる積もりだったんだけどなぁ」。親爺本気でショボンとしている。「ばかばかしいから言わない積もりだったけど、おじさんさぁ“ボーっと生きてんじゃねーよ”」。梶谷がチョッピリ大きな声を発した。


「いえいえ読みの間違いは長さとか密じゃなく男女の心理の差でしょ。おじさんと遠野さんが逆の立場だったらおじさんも10分前を選択したんじゃないかしら」


そんなこんなで暗~いコロナ苦労と窮状話はなし。違和感なく雰囲気は3年前に戻った。梶谷はその間も阿部秘書とはつるんでいたし、お為ごかしの空間話は無駄と判断してのお遊びだったのだろう。


テーブルには大蒜を擦り込んだ蛸とセロリの酢の物、筍の白芽和えに、鮫の軟骨入りの梅肉が並べられている。酒は当たり前のようにまず「洗心」があり、親爺の手元近くには「男山の大吟醸」がひっそりと。「あはっ。これ!横ちゃんに事情を話して『本日は出勤無用』を言い渡したら昨日届いてな」「なるほど。親爺も横山君もでかした」 ある程度は梶谷も「頑鉄」事情を教えているのだろう阿部秘書が筍を食べた後「楽しいお仲間が増えて良かったわ。おじさんや遠野さんの人徳ですかね」と微笑む。「梶さぁ。3年前のバレンタインデーに『デメル』のチョコ渡したらバランタインの17年に『デメル』浸して食べ飲んで『生きてて良かった』と遠野さんが言ったでしょ」「そうそう。言葉に引っかけたのかと思ったけど本当に美味しかったね。でね、実を言うと先月、阿部ちゃんの来店を伝えた時、遠野さん『生きてて良かった』とぼっそり。ね、遠野さん」。はっとした感じで阿部秘書が顔を上げ遠野を見詰める。


「だ、だって3年ぶりだろ。あの時ほら有村社長が『<過って改めざる 是れを過ちと謂う>が、あの長州モンは何も分かってないから困る』と憤慨してたらしいじゃん。で、俺が<小人の過つや 必ず文(かざ)る>。『これが社長の言葉を受けての思いだ。社長に伝えて』と紙に書いたじゃん。4月には会えるはずだったのに。まだ生の声は聞こえてないからなぁ」。照れ隠しの様に言って「洗心」を呷った。


「有村もこちらにお邪魔するのを楽しみにしていましたのに…。今の有村は『日本にはロクな政治家が居ない。菅なんてのは裏工作にこそ存在感があるのであって神輿の上で指揮を執る能力はない。岸田にいたっては下の下。自分が日本のために何をしたいのか全く見えない。ただ権力の座を守り抜くためだけの手段探しに没頭するのみ。元日銀総裁の黒田もしかり。好き好きはあるがお互い顔が気に入らん。卑しいニタニタ笑いで品性下劣』と、バッサリ。少しは岸田さんに期待してた分、評価も厳しいみたいです」


「その通り。岸田の狡さと穢さは“統一教会”問題が最たるもの。“統一教会”とズブズブだった安倍一派と取引してんじゃねぇの。<済んだことは深くは詮索しない、その代り政権に協力しろ>とな。質問権を行使しちゃあいるが前に一歩も進んでないだろ。結局シャレじゃないけど“統一地方選挙”が終わるまでは現状のまま。終わったらタイミングを見計らって“行政指導”かささやかな“行政処分”でお茶を濁してシャンシャンてとこじゃないの。京子ちゃんとこの社長と会うのが楽しみだわさ」。北海道弁で締めた所で「男山」に替えた。


「だから生きてて良かったの?」。梶谷がなおもおちょくる。「京子ちゃんと会えるのが嬉しかったの。おまさちゃんを横に、正面には京子ちゃん。テーブルには旨い酒と料理。こんな幸せなことはありませんっ」「了解!。やはり遠野さんは可愛い。おじさんも」 「ついででも有り難よ。もう少ししたら鯛の桜葉蒸しもあがるからゆっくりしててっよ」


「あら!初めてお邪魔した時頂きましたよね。覚えていて下さるなんて…。ありがとう。梶」。涙声になった。親爺も肩を落としてシンミリの態。空気を察してか阿部秘書が言った。「あ、そうだ。有村もEU時代には何回か競馬場に行ったんですよ。一昨日の『皐月賞』も観たそうですし『ダービー』あたりで合同検討できれば喜ぶんじゃないかしら」

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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