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競馬コラム

心地好い居酒屋

2023年05月10日(水)更新

心地好い居酒屋:第132話

「完庶処」の有村社長との会食は――。招待は暗黙の了解だしお互いに「ウチで」を譲らなかったのだが阿部秘書の強(た)っての願いで「完庶処」=有楽町店に決まった。「有村の我が儘を聞いてあげて下さい」。越の美女・西施よろしく美女が眉を顰めて言うのだから年寄り二人は抗いようがない。“顰みに倣う”とはこの事だ。


約束は6時。親爺とは5時30分に旧日航ホテル前で落ち合いヨタヨタ歩きに付き合ってもらい、店の前に着いたのが5時55分。荒い息を整えながら店内に入ると阿部秘書が待ち構えていて「ごめんなさい。どうぞ」と例の個室へ。部屋には有村と梶谷が対面で座っていたが、当然のように立ち上がり、有村のみが進み出て「有村です。ご足労をおかけして申し訳ありません」。深々と頭を下げた。遠野と親爺も名乗ったが風貌から察しはついていたのだろう、ニコニコ頷きながら「お名前と評判はかねがね伺っております。さ、こちらへ」。梶谷を老人二人が挟む感じで腰を下ろした。対面が阿部秘書と有村だが…。


有村のみは立ったままで「いつもいつもお嬢さんがお世話になりまして有り難うございます」「ちょちょっと」。阿部秘書、親爺に遠野が同時に声を上げた。そこはレディーファーストで「はい阿部さんから」と梶谷。「社長“お嬢さん”はないでしょ。ここは仕事場ですから」「でも、今日は完全プライベートです。お嬢さんこそおかしい。有村さんじゃなく“社長”と呼んだでしょ」。一理ある。有村はそんなザックバランな環境にしたいのだ。


「次は親方さん。あ、遠野さんは、その間、水を飲んで息を整え落ち着いていて下さい」
「社…いや有村さんに礼を言われる筋合いはありません。むしろ私達が楽しませてもらってるんですから。なぁとのさん」。順番がきた遠野は水を二口ほど飲むと「<差別を無くそう>の時代に不謹慎かも知れませんが“いずれ菖蒲か杜若”で才色兼備の女性と旨いもんを食い酒を酌み交わすー。親爺の言う通りです。梶谷君は“おまさちゃん”。阿部秘書は“京子ちゃん”で会話が弾みます。それに有村さんの話題、ご見識も傾聴に値するものばかりで…。こちらこそ有り難うございます」


「いやいや…」。有村が口を開いた時「社長!もうおしまい。お互い言い出したらキリがないでしょ。男性3人のことは皆さん、それなりに理解しあえていると思いますよ」。梶谷がきっちり仕切った。


タイミングを見計らっていたかのように料理と酒が運ばれてきた。「遠野さんは最初から日本酒ですよね」と言い4合瓶と薩摩切り子の冷酒用のショットグラスが、残りの4人は“とりあえず”のビールのようで、全員のグラスが満たされた所で乾杯となった。音頭は梶谷だ。


遠野が一杯目を飲み干し保冷器の中から4合瓶を取りだした。眺めると「浦霞」の純米大吟醸だ。「以前、当店で飲まれたのが『浦霞』だったとか。勝手に準備させていただきました。もしお好みの銘柄がおありでしたら」「いえいえ。十分。満足です」で梶谷から注がれた酒を持ち上げた。その間にゴーヤと新タマの酢の物に鹿尾菜(ひじき)と大豆の煮物が人数分届いた。


「今日はきびなごの刺し身も入ってますが、他に何かご希望は?」。遠野が「薩摩揚げを」と言うと親爺が「黒豚メンチ」を注文。「梶谷さんは紫イモチップスを準備してますから」と有村。


「ねぇねぇ、梶谷さんて固くねぇ。この場じゃあ“おまさちゃん”でいいんでねぇ~か」。最近の親爺は北海道訛りがしばしば飛び出す。
「ところで従業員の方達は当分マスクですか?」「ええ。お考えは同じだと思いますが、昨日までウィルスが居て連休明けを境に急に消えてしまう訳じゃありませんから。店から感染者を出せないし、もらいたくもないですから…。入り口の自動体温計に気付きませんでした?あれ38度以上を感知すると鳴るんです」


「連休前に何もかも解除しての大盤振る舞い。どこを見ても人、人、人。テレビもワンサカ振りを伝えるだけ。高市の放送法問題も有耶無耶でお上にひれ伏すのみ。だいたいマスコミの幹部が総理や政権幹部と会食。それを自慢げに吹聴するってんだからふざけた話ですよ」。遠野は憤慨したが「ん!旨い。玉葱の甘さとゴーヤの渋みがマッチしてこれは珍味珍味」。ご機嫌顔に。やはり“食”はすべてに勝る。


横では梶谷がロックを口にしている。阿部秘書の前に「黒霧島」の5合瓶が鎮座しているのだから焼酎のロックは間違いない。親爺も隣がおまさちゃんで前が京子ちゃん。滅多にないシチュエーションで焼酎の仲間入りしたようだ。


「遠野さんの説では<日本の三悪は政治家、役人、マスコミ>だとか。仰る通りですね。統一教会問題も遠野さんは『統一地方選挙が終われば様子を見て行政処分か行政指導でお茶を濁してシャンシャン。解散命令なんてとてもとても』とのことですが慧眼としかいいようがありません。現に昨日は日本を嘲笑うかのように本部新築のお披露目に合同結婚式を実施。岸田が訪韓中に挙行でしょ。“解散命令?出せるもんなら出してみろ”なんでしょうね」


「長州モンの後は暗躍の菅で次が下の下の岸田。お互い“少しは”の期待があっただけに、あの野卑たニタニタ顔には納得できませんねぇ」。再びボヤきながら酒を呷り、今度は刺し身を食す。食えば和む。


「遠野さんは高校の時から大谷が好きだったし、一昨年のオリンピック時にメジャーの実況がないことに怒り爆発。NHKに抗議の電話をしたと聞いてますが、翻って目下のテレビは何が何でも大谷礼賛。戦時中の大本営発表同様、良かったことだけを報道してるんですから困ったもんです。私も大谷の大ファン。いつまで経っても野球小僧で清潔感や人間性が笑顔から滲み出てますもん」


「だからこそ言いたいことがあるんでしょ?」「畏れ入りました。はい。メディアなら<凄い凄い>と持ち上げるだけじゃなく、大谷に関しての批評も必要かと。大谷の希望はチームのポスト進出。自分の成績や褒めそやされることだけを大谷は願ってないはず。昨年悪夢の14連敗を味わっただけに昨日、今日の大敗が気になりまして。それでも日本のメディアは“今日も大谷選手大活躍”なんでしょうねぇ」「視聴率が上がるし、不安だらけでも大盤振る舞いのコロナ対策に触れなくてもいい訳ですから」。はぁ~。お互い溜め息だ。


「何だって!?オオバンブルマイも③着じゃ仕方ないだろ」。親爺、焼酎で酔ってきた。

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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