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競馬コラム

心地好い居酒屋

2023年12月17日(日)更新

心地好い居酒屋:第141話

16日の土曜日11時過ぎに携帯が鳴った。「頑鉄」の親爺からだ。


「あ、とのさん元気?」


「んなわけないだろ、まぁ悪くもないが良くはないな。いつも心配掛けて申し訳ない。で、どした?」


「いやな。今日は久し振りに好天気であったかいし、出掛けられるかなぁと思って」


親爺がおずおずと、しかも遠慮気味に尋ねてきた。


「実はさ、知ったかさんを筆頭に、みんながとのさんに会いたがってさ。横ちゃんが実家から車を持って来ていて『自分が迎えに行きます』と、張り切っているんだ。何でも冬の間は札幌も雪が多く、90近いじいさんが運転禁止を厳命されたみたいで。もちろんおまさちゃんも来るし、いい唐墨も手に入ったしね」


親爺達が心から心配し、気を遣ってくれているのが痛いほど分かる誘いだ。


「ありがとね。俺も行きたいのは山々だが、酸素ボンベを持ち込んでの鼻チューブじゃあ酒も旨くないし、第一、酒そのものを呑む気にもなれないんだ」


遠野の体調が急変したのは先月4日の夜。その前から黄色の痰がひっきりなしに出るし、脈も早かった。前兆はあったのだが、結局歩くことすらおぼつかなくなった。やむなく救急車に来てもらって、そのままストレッチャーに乗せられ、病院行きと相成った。それが土曜日のことで、日曜日も担当医が決まらずベッドに寝たきり、6日月曜日に担当医が来て、夕方には「原因は細菌か肺炎かのどちらかは分かりませんが、肺気腫憎悪を起こしております」との診断。なら苦しかったのは当然と言えば当然だろう。


自宅の部屋に酸素濃縮機を備え付けてもらい、酸素ボンベのお土産付きで帰宅したのが22日のこと。そんないきさつをおまさちゃんへのLINEとは別に、親爺にだけには報告しておいた経緯があっての今日の電話でもある。


「そうだよな。みんな残念がるだろうが、今は養生が一番。本当に気をつけてな。まあ俺にすれば、大谷の話も色々したかったけどな」


「まあな。猫も杓子も大谷、大谷と大騒ぎ。オリンピック前のNHKに至っては、大谷VS菊池の花巻東対決の試合も無視、夜中から早朝にかけてだらだらと昔の各競技のスポーツ大会の再放送を垂れ流していた。それがこの豹変ぶりだから嫌になっちゃうよ」


2年前の夏を思い出したのか、遠野の口調も厳しくなった。


「そうそう。あの時はとのさんも怒ってNHKに抗議したしな。いやね、昨日、有村社長と京子ちゃんが一緒に来てくれてな、とのさんの詳細を俺から聞きたかったらしいんだ。相当気にしていたみたいだが、その有村社長が興味深いことをしゃべってくれたんだ」


「へぇ~、京子ちゃんも来たのなら、それを報告するのが先だろ」


遠野が冗談交じりに答えた。


「ま、そりゃそうだが、有村社長が言うには、かつてコロナ前には『ザッツ』を筆頭にスポーツ紙や朝刊紙も購入し、店に置いていたらしくて・・。その時、スポーツ紙のコラムで、中畑がドラフト改革提言にかこつけて、大谷と桑田を同格に扱っていたらしい」


「バカバタがどうした?」


「バカバタじゃなく中畑だよ、中畑。社長曰く『桑田が早稲田入学を宣言後、巨人入団。大谷はメジャー入りを宣言後、日ハム入団。桑田と巨人だけ批判されるのはおかしい。もしプロ志望だったらウチ(ベイスターズ)だって獲得に動いたかも知れない。と主張してましてね。ふざけるな、と言いたい。あんたじゃ大谷を説得できませんよ。そう思うでしょ親爺さんも。機を見るに敏というか、大谷が手術前後で、批判しても許される、或いは元巣に喜ばれるとでもと思ったんではないんですか。ここは遠野さんのご意見もお伺いしたいところなんですが』だって」


「バカ、、いやいやあくまでも俺の感覚だが軽佻浮薄、な中畑らしいね」


「とのさん横浜なのに、ベイスターズを応援していないのかい?」


「それこそ“鼻でフン忠臣蔵”だよ。巨人のお下がりを有り難がる球団を応援する気はないね。無党派だよ、俺は」


「アハッ。ちげえねぇ」


親爺が禿げ頭を叩いているのが目に浮かぶ。


「ところでとのさん、しゃべっていて大丈夫かい?」


親爺の声が急にか細くなった。


「大丈夫、多少しゃべる分には問題ない。動くと歩くだけで酸素濃度は落ちるし、逆に脈は急激に上がり、息苦しくなる。こんな体調になって感じるけど、桂歌丸の芸人魂には頭が下がる。歌丸も肺気腫憎悪で亡くなる寸前までチューブ着装で高座に上がっていたもんな。俺も色んな経験をし、色んな職業の人達を見てきて、それぞれの立場の考え方を分かっていたつもりだが、やはり実際その境遇にならなけりゃ、分からんもんだな。偉そうなことは言えんわな」


「いやいや、とのさんにはもうちょっと頑張ってもらわんと。社長も『長州モン(安倍晋三)の負の遺産がようやく出始めたけど、かと言って浅ましく卑しい政治家の一掃は無理なんでしょうね』とホっとすると同時に嘆いてもいたぞ」


「“乞食と政治家は三日やったらやめられない”というが、乞食は子に継がせようとは思わん。政治家くらいなもんだぞ、それだけおいしい商売ってことよ。あいつらが払っている社会保険料やら所得税は2,100万ちょいの歳費が対象。税金のかからない金が3,000万はあるはずだ。政治資金パーティーなんてのは記載云々以前に、禁止にすりゃいい。それでも政治には金が掛かると泣くんなら、政治家なんかならなきゃいいじゃないか。そこが乞食と違うところよ」


「ところで『有馬記念』はどうする?」


「半分以上が社台&ノーザンだろ。おまけにムーアなんてのも呼び寄せているし、昔みたいに興味は湧かん。前々から言っている様に、もう一度『ダービー』と『有馬記念』を生で見たいと思っていたけど、それも外国人が居なくて冬は芝も枯れ寒風吹きすさぶ『有馬記念』こそが暮れの風物詩で味わいも深かったんだけどなあ」


ふぅ~と溜息をつき、「買うならこの馬のお陰で一皮剥けた和生のタイトルホルダーからかな。あっ、これは俺の趣味馬券。おまさちゃんや京子ちゃんに奨めるんじゃないぞ。年が明けて酒を呑む活力が出てきたら、連絡して顔を出すよ。皆さんによろしく伝えておいて」

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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