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競馬コラム

心地好い居酒屋

2024年02月14日(水)更新

心地好い居酒屋:第142話

三連休最後の12日。暖かさが増したとはいえ、車から降りるとさすがは2月、やはり空気が冷たい。「頑鉄」に来るのは何日ぶりか…。以前気胸で入院していた時ですら、2ヶ月弱の休みで済んだはず。なぜか、懐かしくも有り安心感にも包まれた。


玄関をあける前に内から開いた。「久し振り。入って入って。おまさちゃんがお待ちかねだよ」「心配掛けて悪かったな」。詫びながら奥を見ると、梶谷が立ち上がり、<丁寧>な礼をしている。


「やぁ」声を掛けると「ご無沙汰です。元気そうで良かったわ」親爺も梶谷も多くは語らない。


“沈黙は金”。それだけに気持ちがひしひしと伝わってくる。<有り難いことだ>。しんみりしたが「鼻チューブは余分ですけど、似合ってもいます」と梶谷が言い、舌先をチロリ。これで空白は埋まった。


親爺から電話があったのは一昨日のこと。


「どう?みんな会いたがっているし、横ちゃんも『自分が迎えに行きます、遠野さんいらしてくれないですかね』と、しきりに言うし、明後日は休日だから貸切にして『ザッツ』の連中にも声をかけようとも思ってるんだ。あっ、無理はしないでね、とのさんの気分と体調が最優先だから」


「了解。ありがとね。俺も会いたいし、出来るだけ行くようにするよ。ただアホな政治家みたいに<最優先課題>は信用できんけど」「<確かに>。岸田じゃねぇし」。そんなことがあっての来店となったのだ。


「横ちゃんも車を置いたらおっつけ戻ってくるけど、先にやるだろ。飲めるんだろ」「少しなら。飲むと脈が速くなってな…。今日は熱燗にするわ」「じゃあ私も。『千寿』の熱燗を。遠野さんが息苦しくなったら落ち着くまで膝枕してもいいです」と梶谷。刈田が聞いたら卒倒するするような言葉を口にする。まさに日常。


お銚子が来る前に吉野が例によって山葵と蒲鉾、切干大根をテーブルに置くと「遅まきながら明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い致します」「こちらこそ。吉野君にも心配掛けて悪かったね」「いえいえ、そんな。またお会い出来てほっとしました。今日はごゆっくりして下さい」


「いつ以来かな。電話じゃ話したことはあるけど」。と親爺が“待ってました”とばかりに「去年の『菊花賞』の後からだから、約4ヶ月ぶりだな。あん時とのさんが『永島まなみなど若手ジョッキーにもっとチャンスを与えれば良いのに』とボヤいてたし。そのまなみちゃんが今年は既に4勝、とのさんが言っていた通りだから、よく覚えているんだ」


「ふーん。親爺も横ちゃん並にデータに強くなった。そっかぁー、4ヶ月ぶりか。しばらく会わない内に親爺の頭が、おまさちゃんは綺麗さに益々磨きがが掛かったね」「遠野さんもやっと冗談とお世辞を言える様になりましたね」と梶谷。


3人でにっこりしたところに玄関が開き、横山があたふたと入ってきた。「横ちゃんはビール?」「いえ、同じ物を」。横山が答えると同時にお銚子2本が運ばれてきた。お猪口は最初から4つ用意してある。


差しつ差されつで酒が満たされ久々の乾杯と相成ったのだが、今年は正月から色々有り過ぎて、何から話して良いやらで、一瞬静寂が漂う。


口火を切ったのは親爺だ。「能登の地震を考えると、こんな日常が一番幸せなのかもしれんな」に異論無しで全員が頷いた。


「それにしても岸田ってのはろくなもんじゃないですね。以前梶谷さんが仰っていた様に、安倍という重しがとれてやりたい放題。言う事もやる事も支離滅裂ですもんね。<しっかり><真摯に><丁寧に><議論>・・・最後は<重く受け止めます>でチョン。あの男が重く受け止めてたのは安倍の存在だけだったのですね」。横山も上手いことを言う。


「その点で言えば、安倍の存在も必要だったかもしれんが、それ以上に負の遺産の方が大きいんじゃないか。目下の統一教会問題然り、加計学園絡みを忘れちゃいかん。今後の教育行政のためにもだ」フンフンと首を縦に振りながら「とのさんの言う通り」と親爺。「大学の無償化どったらで岸田得意の<議論>が交わされているが、今や全入はおろか、定員割れの私大は数知れず。無償化なんてのは、そんな政治家が粗製濫造で認可した私大を助けるための“子育て政策費”としか思えん」


梶谷は手酌でやりながらぶり大根をほお張っているが横山は手も口も休め耳を欹てている。「立ち行かなくなりそうな私大は、公立移行を願い出ているだろう。その最たる所が加計学園系列の千葉科学大学だ」。


すると黙って呑んでいた親爺が「そういやあ萩生田が落選中に千葉なんちゃらで講師か何かを勤め、ギャラをもらっていたらしいな」「愛媛の農獣医学部は時間がかかりゴリ押しで開校させたが、千葉科学大学なんてのは2002年の誘致で開学が2004年」


遠野が言うと急に「早っ!」と梶谷。「驚くのも早い。誘致の条件が私有地の無償提供。建設費の約70億円は市の負担。市の振興と若者の流出を防ぐという名目もあったが、当時の銚子市長が岡山県の副知事を勤め、その後、加計学園の講師か客員教授かで禄を食んでたってんだから出来レース間違いなしだろ」


遠野がそこまで言って新しい酒を一口でグイッと。聞いていた3人は“えっ”てな顔つきをし、「で、どうなったんですか?」と横山。


「加計学園側が公立志願したのは10月か11月の初旬、萩生田を筆頭に、安倍一派がいればそれも叶ったかもしれないが、直後に今紛糾の裏金問題が発覚、最初は市議会も買取りやむなしだったかもしれないが、今年の議会では継続審議になったみたいだ」


「銚子ですかぁ。じゃあ市と国がそんなに連携するもんですかね」「あのねぇ横ちゃん、地方交付税や交付金は国のさじ加減で決まるもんだからね。千葉県や銚子市に何かの名目を付けて増やすことは可能なんだ。国からもらってないのは東京都だけなんだよ」「やっぱり。お金とお上には逆らえないってことですか」


「早っ」としか声を出さなかった梶谷が「岸田も酷いけど、元々が悪相。大して期待はしてなかったけど、“維ソ新の会”の吉村知事もいかがなものですかねぇ。万博に固執し、今度は大阪の公立大学入学を秋にするとか言い出して。話題になることしか考えていない。遠野さんの言葉通り日本の弊害、世の中を悪くするのは、<1に政治家、2にメディア、3、4が無くて5に役人>で今や“五濁悪世”そのもの。将来を考えると結婚や子育てなんてとてもとても。親方の料理で遠野さん、それに阿部先輩と美味しいお酒が飲めれば良いの。銚子は忘れてお銚子お代わり!」

源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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