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競馬コラム

心地好い居酒屋

2024年04月21日(日)更新

心地好い居酒屋:第143話

20日午前中初夏の陽気に誘われついに「頑鉄」訪問を決意した。


<ここんとこ、レース部で競馬大好き横ちゃんの要望もあって月、火曜日が多かったが、はて?金曜日はいつ以来かなぁ>と思い、とりあえず親爺に連絡。


と「クリニックの処方箋帰り?大歓迎。『ザッツ』の連中にも伝えとく。横ちゃんなんて手際よく仕事を済ませ8時前にはくるんじゃねぇか」


軽い昼食を済ませ湘南新宿ラインに乗ってから梶谷にはラインを。


「先日は看病ありがとう。6時ぐらいには着くと思うのでよろしく」


打てば響くとはこのことで5分もかからぬ内に「お任せ!この間みたいにオデコ冷ましだけじゃなく本当に膝枕OKですから。楽しみにしてま~す」


「膝枕ねぇ。嬉しい限りだが妙齢な美女に接すると心拍数が上がってかえって回復が遅れるじゃないか心配で」


「はいはい。高兄ぃも早く仕事終わらせるみたいですよ。じゃあ後ほど」


既読と返信がほぼ同時ってんだから驚く。


「頑鉄」到着は6時前。嬉しい誤算があった。なんと梶谷が靴も脱がず小上がりに腰掛け“今や遅し”と待ち構えていたのだ。遠野の顔を見るや早足に寄ってきて「お元気そうで…。またお会いできて良かった」と言い酸素キャスター受け取った。こころなしか梶谷の目元が一瞬ウルッとしたような…。


前回は貸切ってことでボンベも座敷に鎮座させてもらったが今回はそうも行かず指定席の横の土間に設置。チューブを一旦抜いて格子戸の隙間を通して再装着となった。


その間も梶谷はボンベを持ち、固定を確認、小物入れからテイッシュを取りだしチューブの差し込みを拭って「はい!どうぞ」。実に甲斐甲斐しい。


「ありがとね。おまさちゃんに会えて、しかもこんなに優しくして貰って…。これだけで店にきたかいがあったよ」


「いえいえ親切うんぬんより飲む体制をしっかり整えておかないと落ち着かないじゃないですか。ね、親方!」可愛い舌をチロリと。


「そ、そうだよ。おまさちゃんは気が利くんだから。」うろたえ気味に答える。


「よし!飲もう。今日は暖かいし『洗心』でいいでしょ。遠野さん!」


「結構結構。家でも軽く晩酌できるようになったが、こんな上物は飲めんし飲み過ぎんように気をつけんと」


「大丈夫大丈夫。私と親方が付いてますから」


言われた親爺は早速酒の準備、仲居のき~ちゃんも「お元気そうで安心しました」と言いながらお通しを並べて行く。蛍イカの酢味噌和えに大豆タップリの鹿尾菜(ひじき)の煮物。定番の板ワサも忘れていない。


「僭越ながら」。急に梶谷がグラスを上げ「阿部先輩が不在なのは残念ですが、遠野さんの冷酒復帰を祝って乾杯」と。


爺い二人は顔を見合わせ苦笑いしながら「乾杯」と。3人とも一気に飲み干した。


すかさず遠野が四合瓶を持ち上げ「ありがとね」と言い梶谷に酌を。ニッコリ受けたが「ンもう遠野さんたら何度も“ありがとう”なんて鬱陶しくなります」


聞いてた親方がハタと膝を打ち「そうだよ。鬱陶しいのは胸糞の悪い岸田の答弁だけで十分。おまさちゃんが言ってたように安倍という重しが取れた途端のやりたい放題。あれほど卑屈で浅ましく無能。それでいて傲慢な権力好きは見たことがねぇ。金魚の糞みたいに安倍の後を大人しく歩いていて従順な奴だと思っていたんだが…。猫を被っていたんだな」と呟きグラスの酒を呷った。


「そうそう。猫を被っていたと言うんなら水原一平でしょ。発覚当初は『大谷選手は悪気はないが少しは知ってるでしょ』なんてしたり顔で宣う評論家も居たほどの巧妙さ。おかげで懐疑的に見られたり翔平君可哀相だったわ」


日ハムは時代はともかく花巻東やエンジェルス時代からの話を遠野から聞かされている梶谷は憤慨する。


「テレビで評論家とかジャーナリストなんて肩書きで食ってる奴の多くは廊下トンビよろしくテレビ局を梯子する幇間みたいなもん。腹は立つけど“跖の狗 尭に吠ゆる”で諦めるしかないさ」


遠野が言って何回目かの乾杯を重ね蛍を味わい山葵大盛りの板わさを喰らう。気心の知れた親爺に妙齢な美女。おまけに旨い酒と魂の籠もった手料理――。これじゃあ酒も進むわけだ…そんな状態を知ってか知らずか4人の客が。き~ちゃんがお絞りを手渡す間に井尻、刈田。どう仕事の都合をつけたのか横山まで入ってきた。


<膝枕はなしだな>


一通りの挨拶と乾杯が終わると一杯飲んだ横山が口を開いた。


「ギャンブル依存症とはいえ、あの額にはビックリ。怖いんですねぇ」


「依存症というより金銭麻痺だなあれは。あんなのが口座を自由にしていたとは、それこそ“猫に鰹節”。常人と言ったらおかしいが俺には常人の依存症の方が恐ろしい。普通の主婦がパチンコに嵌まり売春に走り、男は競馬やゲーム賭博でサラ金通い。昔『ザッツ』にもそんな奴が何人かいて結局は退社せざるをえなくなって。俺が知ってる限りそいつらに共通しているのは“嘘つき”。二進も三進もいかなくなり借金を申し込む時は色んな理由を創出するから凄い。その才能を企画や原稿に生かせと言いたいほど」


遠野が応えると井尻が「遠野さんはそんなの何人も見てきて面倒もみたんだぞ」


「そんなことはともかく馬券は他人が何と言おうと身の丈の合った額に留めるのが肝腎。もっとも身の丈の判断が難しいし…。瀬戸際こそがギャンブルの醍醐味。悩むよなぁ。いや悩んだよ」


「ところで最近の成績はどう?とのさんも買ってんだろ」


「昔の親爺みたいに本場所はメーン一鞍買うかどうかだな。本気で買うならどうしてもノーザンの馬と外国人にブチ当たるし…。今は裏開催中心で丹内と菱田。まなみちゃん(永島)を筆頭に女性ジョッキーの乗り馬を吟味して楽しんでます!」


「ついこの前だったか、おまさちゃんが『嘘つきは政治家の始まり』なんて名言を吐いていたが『嘘つきはギャンンブル依存症の始まり』でもあるわけだ」


親爺うんうんと自分で頷き自画自賛の態だ。


「ギャンブル依存症の嘘つきは自己責任自己破産でしょ。政治家は裏金作りやネコババ同然の税金の無駄使い。同じ嘘つきでもちょっと違うんじゃない」


梶谷が軽く反論した後「ねぇねぇ横山君“ネコババ”って漢字で書ける?」


やれやれ今日は猫づくし。帰りに猫の糞など踏まなければいいが。


源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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