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競馬コラム

心地好い居酒屋

2024年10月02日(水)更新

心地好い居酒屋:第149話

「やっぱあれだな。神輿が勝手に歩いちゃ駄目、いや自分の意思では動けんか」


親爺がボソリと。


ホンの束の間とはいえ秋を感じさせる9月30日、新宿のクリニック経由で「頑鉄」に向かった遠野。予定では6時には着くはずだったが、クリニックはことのほか患者も多く、週明けの月末とあって道路も渋滞気味。結局、到着は7時前となった。もっとも遅れたことで横山はもちろんだが梶谷も居たのは嬉しい誤算だが。久々の挨拶もそこそこに甲斐甲斐しく酸素ボンベとカニューラ(鼻チューブ)の世話をしてくれたのだ。


「有り難う」と礼を言い水を一杯飲み落ち着くや否や親爺の口から漏れたのが先の“神輿”だ。どうやら遠野が送った「仁義なき戦い」→「松方弘樹」の啖呵を連中にも講釈していたみたいだ。


「その通りだが、それより何より待たせてごめん。おそまきながら横山君の無事帰京と再会を祝して乾杯しよう」


「分かってますよ」と親爺が応え「お~い。吉野」と声を出しながら板場に向かう。


「待ってました」とばかりに吉野が盆にお通しを載せ親爺は「男山」の四合瓶とグラスを持って戻ってきた。「遠野さんもお元気そうでホッとしました。今日はいいキンキと毛蟹が入りました。とりあえず刺身を用意します」と。


「横山君の爺さまからの差し入れで横山君の安着祝いも変な話だが」と断り4人で「乾杯!」と。


「有り難うございます。梶谷さんのご配慮で資金も枯渇せず無事に勤めを果たしました。改めて梶谷さんには感謝感謝です」


梶谷は無関心を装い枝豆を口に放り込み冷酒を飲んでいる。思うに梶谷の口添えで甘方の極端な経費節減方針のあおりを食らわずに済んだようだ。


「長期出張だし宅通なんだから宿泊費と日当、おまけに交通費まで大幅削減を目論んだんだろ。甘方の考えそうなことだよ」


「凄い読みだなぁとのさん。大当たりだ。今までその話をしてたばかりなんだ。やはりバカに権力を与えちゃあいかん。身近にそんなんが居るとつくづくそう思うな」


親爺が頷く。


「もっと早く梶谷さんにはお礼を言いたかったのですが機会がなくて」と横山。


「それが正解。この件はここだけ、せめて井尻までの話にしておきなよ。“ここだけの話”と耳元で囁く奴は信用しない方がいい。“衆口鉄をも溶かす”で内緒が内緒であったためしがない。“贔屓の引き倒し”ってのもあるし気をつけような」


遠野が諭すように言う。


「肝に銘じます」と頭を下げ「あ、話は変わりますが『ローズS』は申し訳ありませんでした」


「……。ん?」


「ルメールのレガレイラが惨敗してしまって」


「なぁ~んもだ。そんなの忘れたし、そもそも『ローズS』は買ってないかも」


素知らぬ態で山葵タップリの蒲鉾を食べる。「効いた!辛っ」で鼻を摘まんだ。それでもやめられない。


「ところで親爺が最初に言った“神輿”だが進次郎?それとも石破?」


「両方だな。進次郎は知っての通りで“夫婦別姓”“解雇の規制緩和”“早期解散”を公然と言い放つ始末。んなもん担ぎ手というか最初の振り付けにはなかったと思うぞ」


遠野はうんうんと頷きながら運ばれてきた刺身に目を遣る。


「おっ。墨烏賊の新子が居る!美味そう」


声を出して喜び小皿に盛った塩で食した。


「いいねぇ。また暑くなるそうだが、やはり秋だなぁ」


柔らかい歯触りと切れの良さが何ともいえない。


「美味い酒と肴。政界の魑魅魍魎と狡猾さも忘れる一時だよ。とはいえ進次郎の軽さは酷い。上川に『来年のカナダでのG7でトルドー首相にはどんなメッセージを』みたいなことを訊かれ答が『トルドー首相の就任時は43歳、今の私と同い年で』。これじゃあな。誰かが『地頭が悪い』とテレビで喋ったらしいが言い得て妙なりだ。落選で良かったよ」


「でもよ~。ドジャースの優勝が決まった後で気分よく総裁選を観てたら進次郎の落選はともかく高市と石破の議員票は72対46。高市が勝つのかと愕然としてたんだ」


「そうかぁ。進次郎は70……幾つだろ!」


「75」


記憶と数字に強い親爺が即答する。


「そう石破の46に75を足せば121。全部が集まるとは思わんが振り付け師が一緒。奴らにすれば文太兄ぃじゃないが『弾はまだ残ちょるけんなぁ』。その弾が石破ってこと。もちろんハラドキだったが石破にチャンスありと」


「なるほどなぁ。だから石破も振り付け師の言いなり。手のひら返しで速攻解散に踏み切ったのか。石破お得意キャンディーズの<微笑み返し>なら可愛いけど」


親爺のギャグに横山はポカンで梶谷の口唇は「バッカみたい」。声にはなってない。


「振り付け師にすれば“選挙の顔”として石破を引き立てた訳だし、勝たないことには意味がない。第一投開票日の27日はホレ“ポルシェホテル”で有名になり秘書給与を詐取したエッフェルおばさん辞職に伴う参院の補欠選挙日。自民は不戦敗みたいだし<木は森に隠せ>で衆院選と同日選挙なら目立たないからな」


遠野なりの能書きを垂れ一息ついた時毛蟹のお出ましになった。身がビッシリだ。


「札幌で食べた毛蟹より立派です」


横山の言葉に親爺も満足げにニッコリ。


「遠野さんも召し上がるでしょ。私ほぐします」と梶谷。やはり養生して生きてて良かった。


比較したら怒られるが同じ女性でも……。


「石破の神輿はともかく裏金議員の公認をどうするかだな。全部が全部非公認とはいかないだろうが、万が一でも高市の裏金推薦人・杉田水脈を比例区の上位で公認するようなら最悪。安倍を国賊呼ばわりした村上誠一郎を事もあろうか総務大臣に任命し文書捏造疑惑のある高市に喧嘩を売った以上、それなりの結果を出してもらわんと。単なる“牽制”じゃ無いことを祈るよ」


「立憲は伸びるのかね。維ソ新の会は万博と広島県知事・斉藤でミソをつけたし追い風だろ」


「前回が酷かったから少しは戻すだろうが立憲の野田なんてロクなもんじゃねぇ。安倍内閣生みの親で民主党崩壊のA級戦犯がどの面下げて、どの口で約束云々をほざくんだ。政権交代なんて夢のまた夢。俺は期待してない。それだったら石破の一人歩きの方が望みはある。岸田と一緒で正式に総理に任命されたら豹変するかもな。二階堂(進)さんの薫陶を受け尊敬もしている森山が幹事長なら……。」


横山が蟹をほぐす手を止め「えっ。二階は引退で倅が出るんでしょ」


源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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