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競馬コラム

心地好い居酒屋

2025年03月05日(水)更新

心地好い居酒屋:第154話

先月は予期せぬ雪→競馬順延で車を出せなくなった横山。この週末9日には札幌の実家に車を送り返すとかで「是非遠野さんに乗っていただきたい。ちょっと早いのですが3日に病院に行きませんか。お迎えに上がらせて下さい」


またしても親爺経由の連絡だが「名誉挽回、汚名返上の気迫が漂っていてな。何でも日曜に出勤。月曜日を振り替え休日にして何時でもいいようにスタンバイしとくからってさ」。連絡がはいったのは月末の28日。


前回の診療が2月10日だから確かに早い。とはいえ来週だってどうなることやらだし、早いに問題はなし。お言葉に甘えることにした。この日は前日とは打って変わっての寒さ。三寒四温なんて柔な言葉で済ませられるもんじゃない。寒も寒。大寒以上の戻りになっちまった。それでも明後日は啓蟄。虫だって出てこられるかどうか。


横山の到着はジャスト2時。シートには暖房が入っている。


「助かり助かり。有り難うな。それにしても凄ぇ車だなぁ。去年乗っけて貰った日産の……エク……」


「エクセトレイルは姉が必要なそうで」


「で、君がアルファードてこと」


「あると爺さまが運転したがるもんで」


「ふぅ~ん。確か87歳だったっけ。後期高齢者の暴走族じゃ困るぞ」


「乱暴な運転をするわけじゃないし家族も好きにさせてます。それより、いつも爺さまの歳覚えていてくれてありがとうございます」


「んなもん。邦ちゃん先生と同い年だろ。亡くなって間もなく9年。考えて見れば俺も邦ちゃん先生以上生きてるつてことか」。しみじみ言った後で<俺もボツボツだな>と呟く。


荒天で冷蔵庫の一日。さすがにクリニックも混雑はなく診療を終え再び車に乗ったのは4時前で「頑鉄」には着いたのは4時半。親爺が傘を持って霙の下の軒先で佇んでいる。当初は横山が「帰りもお送りしますので」と申し出てたのだが


「バカなこと言っちゃいかん。酒は友と飲むから美味いんで友が禁酒で“おんぶに抱っこに肩車”で送ってもらったんじゃしめしがつかん。早く帰って車を置いてきな」


「と、と、友ですか。有り難うございます。できるだけ早く戻ってきます」


すでに暖房は入れてるがホールが親爺と二人っきりじゃなぜか冷たい。


「横ちゃん嬉しそうだったな。良かった良かった。とのさんの役にたてて爺さんへの土産話になるんじゃねぇか」


「こっちにすればそこまでされる覚えはないけどなぁ」


遠野が首を傾げる。


「横ちゃんにすればこれまでの経緯からとのさんの雰囲気に溶け込み共鳴、感銘があって尊崇されてるのかもな」


「それはそれで有り難いが……。親はともかく爺さんて何やってた人。いや、それともまだ現役?。律儀だし車好きに孫コン。そうそう横山君が中学の頃、大泉(洋)が『札幌記念』のプレゼンターつてことで爺さんに頼んで馬主役員席に入れて貰ったり……。普通の人にはできんからなぁ」


「もっともおかげで大泉の裏顔か本性を知って逆に大っ嫌いになったとか。いや、俺も詳しくは知らんが複数の貸しビルを所有しているのは間違いない。若い頃はそれなりに遣り手だったんじゃないか。今は素っ堅気だけどな」


「どうりで」


「ん?」


「ホラ。横山君は純朴じゃん。礼儀も弁えているし。納得がいかんと相手が上司でも食い下がるし。今の子にはなかなか少ないよ。親爺もいい相棒を得たね!」


「あ、そうそう昨日は相棒が出勤で競馬は一人で観てたんだがグリーンチャンネルのパドック解説は何とかならんかね」


「惑わされて損したとか」


「そうなんだよ」


得たりとばかりに身を乗り出し「千壽」の熱燗を注ぐ。


「文句を言い出したらキリがないけど『中山記念』にはぶったまげたよ。秋~春先にかけての休み明けは増えてて当たり前。そうだろ。とのさんが昔から教えてくれてたし。だろ、それが何を血迷ったか勝ったシックスペンスを外してな」


「ノーザン→キャロット→国枝→ルメールなら万全の構えだろ。俺はルメールが勝てそうなレースはよほどのことじゃ無い限り買わんけど、親爺と横山君の結論はルメールじゃなかったの」


“泣くなら変更するな”と言わんばかりに手を振り大豆タップリのひじきを摘まんだ。それでも今日の親爺は泣きが続く。


「解説者曰く『10㌔増ですか~。皮膚の皮一枚分太い感じです』。この微妙な表現に……」


「コロリと変心したってことか。そいつがどこの誰か知らんが美味い言い回しをするじゃない。だまされた親爺が悪い。ただなぁ俺にもパドック解説には要望があってな。解説が終わると『では推奨馬を教えて下さい』とアナが頼むだろ」


「俺それは要らんけど」


「まぁいい。黙って聞け。頼むと解説者が『まず6番、それから2番……』とたいてい5、6頭挙げるだろ。で、『まず』の6番の結果をのちに公表するんだ。そうだな<③着内率>とか<単複>の回収率を。まずは1週間分。そして一開催分を」


親爺と二人だし、遠野も今までの憤懣をブチまけ蒲鉾を放り込むと熱燗で流し込んだ。


「なるほど。それだといい意味でも悪い意味でも俺たちの参考になるな。ただ解説者は嫌がるだろ」


親爺は優しい。


「いや結構当ててる奴は喜ぶんじゃねぇ。それに嫌だったら辞退すりゃいいだけの事。こっちは金払って観てるんだし、連中はギャラを貰ってるプロ。外れまくりを公表されても“名誉毀損”にはならんだろ」


「違ぇねぇ。で、どうする」


「そこだよ。グリーンチャンネルではよく視聴者プレゼントをやってるだろ。“ご希望の方はグリーンチャンネルへの要望などお書き下さい”ってな。そこに親爺が投稿するってこと。たまには電話でもいいぞ。これはいい。そうしょうそうしょう」


遠野一人で盛り上がっている。


そこへ「お待たせしました~」と明るく元気な声がはいってきた。


「お、来た来た。今日は有り難ね。外は寒いだろ。さぁ駆けつけ三杯だ」と遠野が酌をする。


「頂きます」で杯を上げグビッと。続けての酌を受けながら「これまどんなお話を」


「横山君の居ない時に競馬の話題は盛り上がらんよ。今日の車から日産の話になってね。退任が噂されてる内田社長が昨暮れに『9,000人のリストラの責任を感じ年俸半額にします』と宣言しただろ。それでも3億円ってんだからビックリ。ホンダとの経営統合協議の際には『上も下ありません。共に明るい未来を切り開いていきましょう』なんて立場も弁えず、おまけに中学生ですら卒業文集に書かない空疎な言葉を吐いて……。最近勘違い人間が多すぎるって話さ」


「そうですよねぇ。虎ンプの威を借るバンス(副大統領)に支援が当たり前とばかりにホワイトハウスに乗り込んだゼレンスキー。小粒ですが玉木に前原。勘違い男が溢れすぎです」と横山。


これには親爺も遠野も目をパチクリ。


源田威一郎

GENDA ICHIRO

大学卒業後、専門紙、国会議員秘書を経て夕刊紙に勤務。競馬、麻雀等、ギャンブル面や娯楽部門を担当し、後にそれら担当部門の編集局長を務める。
斬新な取材方法、革新的な紙面造りの陣頭指揮をとり、競馬・娯楽ファン、関係マスコミに多大な影響を与えた。
競馬JAPANの主宰・清水成駿とは35年来の付き合い、馬主、調教師をはじめ懇意にする関係者も数多い。一線を退いた現在も、彼の豊富な人脈、鋭い見識を頼り、アドバイスを求める関係者は後を絶たない。

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