心地好い居酒屋

心地好い居酒屋

10/05 (日) 心地好い居酒屋

「もう3年、いやまだ3年か。時間の感じ方は人それぞれだが高市の総裁就任でいえば“まだ3年”ってとこか」


ようやく秋を迎えた10月5日。誰からの誘いでもなく遠野は久々に「頑鉄」に出向いた。指定席に座り親爺と二人焙じ茶の香りを楽しんでいると突如、親爺が呟いたのだ。


「何じゃそれ」


「ほれ、3年前、安倍が教団にじゃなく凶弾に倒れた後、いつもは『しっかり』だのの言葉でモタモタしている岸田が“国葬”だけは早々に決めたじゃん。あの時、俺が『<虎は死して皮を留め 人は死して名を残す>というが安倍の場合はどうかね』ととのさんに訊いただろ」


「そんなことあったっけなぁ」


遠野は痛いのか思い出そうとしているのか首は回しながらボソっと。


「そん時に応えたのは<安倍は死して 物議を醸す>だったんだ。政治テロじゃなかったし確かに当時は賛否両論の喧々囂々。物議を醸したもんだ。もっとも潮が引くようにアッという間に話題から消えたけどな。それが、まだ3年ってのに<安倍は死して 女狐残す>になっちまったよ」


ボヤきながら茶を啜る。“虎(安倍)の威”にひっかけて女狐とは親爺も上手い事を言う。


「思い出したぞ。そのとき俺は<虎を養いて自ら災いを残す>とも言ったな。新しい虎は麻生太郎か。幹事長が善幸(鈴木・元総理)の倅で嫁の弟でもある俊一らしいし。どうなることやら。ふぅ~だよふぅ」


「外務大臣は麻生と結託した茂木が有力なんてメディア辞令も出てるしな」


親爺も頷く。


「問題はそこだよそこ。まだ総理でもないのに誰に聞いたか内閣の人事をどったらこったらタレ流すメディアと廊下トンビの幇間評論家のしたり顔を見てると反吐が出る。前代未聞・荒唐無稽のことだが現総理である石破が突然開き直って『国会を解散する』と宣言すりゃあな。これこそ口先だけじゃなく“解党的”だろ。<桐一葉 落ちて 天下の秋を知る>。何もできなかった石破の最後っ屁があれば面白いんだが。ま、日本の未勝利馬が『凱旋門賞』を勝つことより実現性は低いけど……」


「そりゃあそうと高市はどこと組む積もりかねぇ。蝙蝠じゃなく公明党と維ソ新の会は折り合いが悪そうだし、やっぱ国民民主か」


「市長のラブホ通い報道はテレビもしつこいが天下の公党の党首・タマキン玉木は、もはやお咎めなしか。そういう点では政治家らしく太々しく厚顔。与党での甘い汁を吸ってきた経験もあるだけにくっつく可能性は高いな。ただ年収の壁アップだの減税だの聞こえの良いことばっか。入りの政策が聞こえてこん。財政重視の麻生がバラ撒きを飲むかどうか」


「税金で思うんだが俺は食料品はキリよく5%に下げ、他は10%に据え置く。その代わりに贅沢物品税を10%に上乗せすりゃいい。昔の物品税は冷蔵庫やテレビ、車にもかかっていたが、日用品は超高級品以外はなし。今まで通りの10%。そうだな例えば車は300万、時計や貴金属、装飾品などは10万超。銀座の高級クラブや飲食店も値段次第では消費税に上乗せする。だってよ、昔は一人1万円超には飲食税がかかっていたはず。それが今は一律の消費税。政治家なんてのはどうせ俺んちなんて来ないし政治資金とかで料亭通いしてんだから痛くも痒くもねぇだろ」


昨今の物価高で仕入れにも苦労している親爺の言だけに説得力がある。


「確かに!消費税より贅沢税だな。電車のグリーン車も通行税なしのグリーン料金だけ。飛行機だって、今はプレミアムシートとか呼ばれているが昔、全日空はスーパーシートてのがあって、この料金が俺の記憶では羽田→九州・北海道で7,500~8,000円。それが消費税が導入された当初は7,000円。つまり贅沢税が廃止され、消費税に変更されたおかげでむしろ安くなったってこと。この一事をもって今の税制は金持ち優遇ってのは歴然」


「ふぅ~ん。やっぱなぁ。娘が『アンパンマン』が好きでなぁ。で、珍しく朝ドラの『あんぱん』を観てたんだが“食”の大切さを改めて感じたよ。政治家は国民が安心して美味いもんを腹一杯食えるようにしてもらいたいよ」


悲憤慷慨してた親爺も最後にはしみじみと。


<清茶淡話>の状況になりかけた所へ息せき切って横山が到着。定番の挨拶を述べた後「あれっ。まだ始めてないんですか?お加減が……」


不安げに遠野の様子を窺う。


「なぁ~んもだ。冷やか燗で迷ってただけ。横山君はどうする?」


「遠野さんとご一緒ならどちらでも」


「じゃあ消費税の話はやめてたまには熱燗で行くか」


この日は予約が多いのか仲居のき~ちゃんも居て早速準備。お通しは定番の板わさ等の他に松前漬けも。昆布の絡まった大ぶりの数の子が鎮座していて美味そうだ。


「消費税ですかぁ。お二人にしては珍しい話題ですね」と横山。「親爺が『贅沢物品税を作れ』と怒ってな。で、まぁ差し詰め馬代金だな。普通の10%に上乗せして最大20%にするとか。全部とは言わん。3,000万超が15%で1億超が20%ってとこかな」


遠野が冗談交じりに言うと、横山は酒に噎せたのか「ブホッ」と声を出し、それでもスマホを取り出すと「今年は最高が6億で3億超が約50頭。1億超なら100頭は居るでしょう」


「ゲッ!そんなにか。20%なら最低でも100億の増収か」とは親爺だ。


「絵空事みたいだが政治家が圧力を振り払い利権抜きで贅沢物品税に取り組めばできない事じゃない。そうでもせん限り格差は広がるばかり。消費税ゼロはありえんし、玉木得意の“年収の壁”なんぞ根本的な解決策にはならん」


「そうなると馬主もそうそう買ってはおれないんじゃないですか」


「余裕があり顕示欲も強いから馬主をやってるんで慣れちゃえば買うさ。高いのを誇示する者も居る。尤も安くなればなったで喜ぶ個人馬主が増える訳で。横山君が来る前に飛行機の話もしてたんだが……。これは特異な例だが昔、まだ出馬確定が金、土曜にならないと分からない時、ある馬主が某紙で『土、日、早朝の函館行きの飛行機は馬主専用のスーパーシート枠を確保すべき。馬主が北海道に行くってことは経済効果も高いんだから』との“提案”をしてな。それだけ選ばれた特別な人間との自負があるってこと」


「誰ですか?」


「言わぬが花」で秋刀魚の刺身に箸を付けた。


「とのさんが酸素ボンベの世話になって来月で2年。“もう3年か”と俺に言わせてくれよな」


遣り取りを聞いてた親爺がポツリと。横山はポカンだ。