心地好い居酒屋

心地好い居酒屋

11/05 (水) 心地好い居酒屋

11月4日―。清水成駿の月命日であり遠野が緊急入院<肺気腫増悪>を宣告されボンベ生活を余儀なくされてから丁度2年。親爺の「本物の生イクラが手に入った」との誘いもあり久し振りに「頑鉄」行きとなった。指定席の机の上には煙草を薫らせる清水の遺影とその前には親爺にしては珍しく鰻の蒲焼きと松茸が鎮座している。


「清水さんお気に入りの鰻屋さんのとは違うけど入院中に『鰻を食いたい』と言ってたのを思い出してな」と親爺。


到着済みの「ザッツ」の3人は焙じ茶を隅に寄せ献杯の準備をする。<熱燗>と言おうとした時に仲居のき~ちゃんがお通しと一緒に2合徳利を運んできた。増悪→酸素吸入に陥ると平均余命は3年とか。そんなこと知ってか知らずか親爺が音頭をとり機嫌良く『献杯!』と。


「暑くて動けない」なんて零していたのが嘘のような気候の変わりよう。昨日には木枯らし1号が吹いて最近の日本には心地よい秋がない。


「そういやぁ今の季節そのもので昔は店先にご愛嬌で“春夏 冬”の看板を掲げる飲食店が結構あったもんだが、トンとみかけねぇな」。


親爺が言うと「そんな店に限って中には“二升五合”とかの貼り紙があって……。懐かしい景色だな」と遠野。


井尻はウンウンと頷き、梶谷は口元を隠し「ウフッ」と。「何ですか?それ」。横山だけが怪訝そうな顔をする。


「あのな。普通は春夏秋冬と言うが“春夏冬”は秋がない=商い中で“二升五合”は一升の倍と半升で商売繁盛ってこと」。呆れたような顔をして井尻が教える。


「なるほど。そういうことですか。よ~く分かりました」


「そんなに感心するほど大げさなもんじゃないだろ」


「いえね。自分がたまに行く例の、遠野さんが伝説の人になっている月島の居酒屋さんには“一斗五合”の木札があって……。訊くに訊けず状態だったのですがご商売繁盛の意味だったんですね」。横山が一人で納得している。


「やっぱ“春夏 冬”は地球温暖化の影響かねぇ」。


親爺が呟く。 そこへ土瓶蒸し登場。松茸だ。「やったぁ!」と梶谷がはしゃぐ。


早速蓋を取り香りを確かめ軽く巣立ちを絞る。遠野達も同じ所作を。


親爺は綻んだ顔を見渡しながら「やっぱ“春夏 冬”地球温暖化の影響かねぇ」と。


「<温暖化 下駄の雪をも 溶かしけり>。半世紀くっついていたのにアッという問に溶けちまったんだ。強烈な温暖化だろ。逆に人の心は冷酷化してるけどな」。


遠野が応えると梶谷は摘まんでいた銀杏を口に放り込み“パチパチ”。手を叩いた後「うまい」。銀杏が「美味い」のか下駄の雪が「上手い」のか定かではない。


「でもよ~。公明党の方から連立離脱だろ」


「どうだか。高市が『一方的に』を強調するのが臭くて。高市陣営には韓信のような参謀が居て公明の方から離れて行くよう仕向けたのかも。だって自民にとって公明より維ソ新の方がハードルは高かったんだから。政治と金の改革の一丁目1番地は企業・団体献金の廃止だろ。それを無視同然にして議員定数削減で合意ちゅうんだから……。“韓信”が仲に入っての高市と吉村洋文のデキレースとさえ勘繰っちゃうよ。あの傲慢とも思える強気な発言と空母上でのグルリ一回転のはしゃぎようは尋常じゃねぇ。おまさちゃんの『やったぁ!』は可愛いし『ドジャース』のシャンパンファイトは感動的だったけど」


と言って今度は遠野が銀杏とエビを取りだした。


「正直言って俺も高市の作り笑いとトランプへの媚び様を見ると顔を背けたくなる。殆どの人間は慎重さより勇ましい発言を好むが高市は度を超している。『完庶処』の有村社長が『戦争を始める者は戦場にはいない。戦場には若者の屍が横たわるのみ』と言っていたが、<雌鳥ときを作れば家滅ぶ>にならなきゃいいが」


「高市が聞いたら『そんなの(書経)大切する国だから嫌い!』ってね。尤も俺は結果を知らずに滅ぶけど」


「似たようなもんさ俺も。ただ去年言ったろ。『大谷の二刀流復活を見たいだろ。その為にも頑張らなくっちゃ』ってね。何とか見られたけど本物じゃないからな。来年も元気なら完璧な大谷になってるかもな。3年はあくまで平均。とのさんなら平均以上だよ」


聞いてた3人は分かったのか分かってないのか深くは詮索せず黙々と箸と口を動かしている。遠野は土瓶蒸しを食べ終えイクラを掬って一口。ネットリしていて噛むとプチン!これぞ甘露甘露だ。続いて熱燗をゴクリ。今度は蒲鉾の上に乗っけて食ってみた。これもいける。


「<小人閑居して不全を為す>だが<老人閑居してメジャーを楽しむ>。旨い飲食時には隣に若い美女が侍っているのだから文句は言えんな」


「でしょ。感謝してます!ぐらい仰ってもいいと思います」と上目遣いで舌をチロリ。


「あ、そうだ。先週は関西でC・デムーロが重賞V。GⅠは2週続けてルメール。横山君は当然ゲットだろ」


「えっ。まぁ」


「俺に気兼ねは必要ない。外人を買う気がしないだけのことだから」。


割ってはいったのが親爺で「おかげさまで。『秋華賞』と京都のなんちゃらは馬連のみだが『天皇賞』はルメールとC・デムーロの並びにレーンを加えての3連単までバッチリ。言っとくけど『天皇賞』のおかげで松茸が皆さんの腹に収まったんだからな」


焼きも出してくれたことだし一同「へへ~」。頭を下げるしかない。


「高市の人事にも笑える。農水の進次郎が防衛に変わって農水役人出身の鈴木が抜擢。米政策に関していきなりの卓袱台返し。経済安保担当大臣の小野田紀美ってのも訳分からん。高市総裁誕生に向けての応援団長らしいが、論功行賞もここまで露骨だと、もはや開き直り。維ソ新の吉村がどこまでついて行くかが鍵になりそう。ただ小野田には頼みがある」


「何か期待できるんですか」と井尻。


「あの大臣は“外国人対策”も担当してんでろ。そこでだ。『出稼ぎ外人ジョッキーの規制強化』に期待ってこと。外国人優遇。日本人が排除されているとのことから『参政党』あたりが伸びてきて、そこでこんな担当ができた。作った以上は実行しろ」


「ハハッ。真面目に聞いて損したよ。あり得んあり得ん。とのさんもルメールやらレーンにデムーロ。モレイラてのも居るな。遂に“ここにきたか”」とハゲ頭を指さす。


「その通り。ありえん。でもな外人出稼ぎジョッキーの招聘がノーザン・社台寡占の一因になっていることも確か。ニッポンニッポンと騒ぐなら日本の若手をもっと育成登用しろってんだ。清水さんだって同じ意見だと思うぞ」