心地好い居酒屋
「17日、土曜日なんだけど何人かで集まれるかなぁ。いやね、同級生がいつも横浜まで来てくれるだろ。申し訳なくて。去年で“賀状終い”したもんだから新年早々、連中から電話が何本か入って……。で、まあ幹事役に『友人が九州から出て来るというし、たまには俺の方から出掛けるよ。都内での飲み会をセットしてくれ』と言っちゃって。恐らく皆の足の便を考えて池袋になるだろうが、年寄りの集まりはだいたいが1時。3時過ぎには散会になるはずだから4時過ぎにはそっち(頑鉄)に着くと思う」と。
「えっ。ホント!大丈夫か。こっちは願ったり叶ったりだ。おまさちゃんや知ったかさんに伝えとくよ。横ちゃんが喜ぶぞぉ」
「じゃあ頼む。その横山君に毎回迎えに来て貰うのも気が引けるし」
「……。了解。でも無理しないでな」
「有り難う。キツかったら池袋の方も断るから」
そんな会話があっての17日。日頃の行いのせいか陽気も良く、友人達も元気だったし遠野が都内まで出てこられた体調を喜んでくれた。尤も、おかげでランチ→お茶となり「頑鉄」到着がチョイ遅くなったが……。
タクシーの中から「先に始めておいて」と伝えていたのだが果たせるかなで「頑鉄」ではすでに予定の3人に刈田を加えた4人が揃っていたが『お先に』と言ってグラスを挙げ“始めていた”のは梶谷のみ。
正月の挨拶もそこそこに遠野もニッコリで、格子枠の隙間からチューブを渡して梶谷の前に座った。
「とのさんが元気そうで何より。まさに“明けましてお目出度うございます”だな」
親爺の言葉に全員がうんうんと頷く。
「ありがとね。何とか年も越せたし、この分ならもう少し酒も楽しめるかな」
遠野が応えると、吉野が調理場から新しい「洗心」とグラスを持ってきて
「本年もよろしくお願いします」
早速、梶谷がボトルを受け取り「暖かいし冷酒にしました」と言いながら遠野のグラスを満たす。次いで親爺へ。刈田と横山は上司の井尻に配慮したのか“とりあえず”はビールだ。
「こっちは嬉しいけど新年早々同級会とはなぁ。結構長い付き合いで絆も深いんだ」
ゴクンと一飲みして親爺が感心する。
「いやな。原田って女の子で、世間じゃオバサンだが同級生の中では女性はすべて女の子となる訳だが、運悪く亭主の転勤で神戸に引っ越した3年後に、あの「阪神・淡路大震災」に遭って……。その後30年、つまり昨年までは実家近くの九州から17日早朝の慰霊式に顔を出していたらしいんだが、31年目の今年は亭主の実家のある千葉に墓参りに出てきたとか」
「あれから31年かぁ。テレビで見たんだが、そう言えばその前後だったか年頭に亡くなった久米宏が『僕の目の黒いうちは日本が戦争をしないで欲しい』と願い『そう言いながら若い人たちにバトンを渡せば良い。渡された人たちも自分の……。が続けば未来永劫戦争は起きない』らしきことを言ってたが、久米宏の目が白くなったせいじゃあるまいが政治がキナ臭くなったなぁ」と親爺。
「高市と吉村の言動を見てると遠野さんが仰ってた通り公明党の連立離脱は奴らの奸計、デキレースだったとしか思えません。どっか狂ってますよね」
「井尻部長!何を今さらです」。
梶谷が冷やかす。井尻と梶谷が従兄であることを知らない刈田と横山はビールを持つ手を止めて相互を見遣る。ハラハラしているのかも。
遠野は笠子の刺身を摘まみ「洗心」をグビッ。白身に合う酒だ。美味い。
お替わりを梶谷にねだりながら「久米宏が<目の黒いうちは>と発言したのは彼の『ニュースステーション』が絶好調だった頃。自民党が敗北、細川政権誕生の流れに寄与したんじゃない。
そのくらい久米の番組は人気があり、影響もあった。
ただ当時のテレ朝の報道局のお偉いさんだった椿ナンチャラってのが調子に乗って『テレ朝が自民を破った』みたいなことを口走りやがって。
メディアの傲慢さを改めて思い知らされたもんだよ。と同時に新聞が椿発言に反発し権力者も監視を強化する発端にもなったし。
増してや今はテレビを監督する総務大臣だった高市が総理で“狐狸狐略”の保身解散。“こりこりゃく”は個利じゃなく狐と狸だからな。それでも堂々と真っ向から批判する報道や評論家は少ないはず。
現に、ある番組じゃあ“大御所”と呼ばれる評論家かジャーナリストか分からん年寄りが『解散の大義ならあります』なんてほざいているんだから」。昼からの酒のせいか一人憤慨している。
「とのさんの説は昔から世の中を悪くするのは“一に政治家・二にメディア。三、四がなくて五に役人”だが、最近は特に合点がいく。それにしても吉村のW選も訳分からん。『政治家として大阪都構想にはもう挑戦しない』と啖呵切っておいて『W選で民意を問う』とは何じゃらほいだ。嘘八百、何でもありの政治家だから吉村なんて府知事は止めて衆議院に立候補、地方自治を担う総務大臣を狙うかもな。とはいえ野党のタマキン玉木の国民に野田立憲と山口公明の新党結成も褒められたもんじゃねぇが」
親爺も乗ってきた。
「どうなるんですかねぇ。結果は」。おずおずと刈田が口を開く。
「裏金問題、統一教会との癒着、無謀な真冬解散の大義……。など権力側への報道の仕方次第だが、このままだと“狐狸組”の勝ちじゃないか。目下の報道を見てみな。なんかあると“ニッポンニッポン”“ジャパンジャパン”で日本選手だけを大絶賛。ナショナリズムも極まれりの状況だろ。勇ましく好戦的な発言に支持が集まるのは当たり前。角さんの日中国交正常化時代とは裏腹に今や“嫌中派”が大勢を占めているみたいだし高市の台湾発言にしたって支持の方が多いらしいじゃん。トランプに媚びて媚笑してもいつ梯子を外されるか分かったもんんじゃないんだけどなぁ」
あ~あと溜息をつきつつも運ばれてきた唐墨には相好を崩す。美女のお酌で美味い酒に美味い食べ物。おまけに気の合った友達に恵まれて……。不平不満を言ったらキリがない。
「ところで今日は馬券どうだった。俺は買ってないけど」。
えたり!とばかりに
「京都はケンでしたが中山はウイン=松岡のコンビに注目して単勝(1260円)と馬連⑧⑭(3330円)を仕留めました。何せこれまでの全4勝は松岡騎乗でのもの。自分は▲でしたが『優馬』の中田さんが◎を打ってましたし」
「立派立派。明日は何を買えばいい?」
「そ、そんな。遠野さんに講釈はできませんが、自分は中山は中田さんと一緒でアクセスを。京都はノーザンで申し訳ありませんがゲルチュタールからで」
「なぁ~んもだ。んなもん気にしないで中山もルメール=サンデー=ノーザンの??何だっけ」
「ソラネルマンです」
「そうそう。それを買ってもいいんだよ」
平和な風景だ。久米宏 享年81歳。黒い目は閉じたが戦争はしないで欲しい。


