奥村武厩舎での新たな気付きと改めて考えさせられた三冠達成の難しさ

10/30 (金) 厩務員・国枝栄の調教日誌

まず、担当しているバーンユアハートが、10月31日(土)の東京5レースに出走することが決まった。奥村武厩舎で働き出してからの「初陣」だから、何とかいい結果を出したいよね。

調整については、27日(火)の乗り運動から岩田康誠騎手に跨ってもらい、翌28日の最終追い切りでは古馬を相手に追走して65秒9-51秒1-37秒7ー12秒0と結構いい時計を出してきた。シッカリ追ってもらったし、感触を聞くと「軽い芝でもっと良さが出そう。キレる脚がありそう」と好コメントだったんだ。

幸いにも天気は良さそうだし、良馬場でやれそうなのがいいね。ここは、イクイノックスの全妹であるエクアトーレがルメール騎手騎乗だし人気も話題も集めそうだけど、こちらも仕上がりはいいから期待は持っているよ。

前日には馬運車に乗せる「練習」もやる。短期放牧を繰り返してレースに使う今の時流だと、馬運車に乗ること自体の頻度は昔より上がっているけど、まだそこまで輸送に慣れていない若馬には乗せて慣れさせることも大事なんだよね。レース当日に落ち着きを持たせる意味でも、そんな対策もしているよ。

1週前にはゲート練習もやってスタートも良かったから、ポンといいゲートを切れるんじゃないかと思っている。9頭立てと落ち着いた頭数だし、出られたら前に行ってもいいし、他馬を追走する調教を主眼にやっているのである程度の位置からタメを利かせても大丈夫でしょう。あとはジョッキーにお任せするよ。

まだヤンチャなところがある仔だけど、馬房の前を掃除するときのホウキに向かってジャレてきたり、ホウキの先をハミハミと噛んできたり、かわいい仔なんだよ(笑)。

▲国枝厩務員が手にするホウキに興味津々のバーンユアハート
ホウキ自体を怖がったりする馬もいるけど、こっちは好奇心が勝っているのか気になっているみたいなんだよね。クセというワケでもないけど、仕草が面白くてね。個性もわかってきて手入れや扱いにも慣れてきたから、あとはレースで頑張って欲しい。

初陣バーンユアハートのデビュー戦と
ヒズマスターピースの調整状況

ただ、デビュー戦のパドックで自分が曳くのはちょっと出来そうになくて…。というのも、以前に自分の足のつま先を馬に踏まれたことがあって、そこがここ数日でじんじんと痛んできてね。

レントゲンを撮ったけど、骨にも異常はなく大きな問題ではないし、普段の乗り運動はできているんだけど、レース当日にある程度の速度で歩けないのも馬に申し訳ないからね。

ほかの人に持っていってもらって、厩舎に残った馬の手伝いなどをしながらタブレットかスマホでレース観戦しようかと思っている。こればかりは仕方ないから、早く治したいね。

もう1頭の担当、ヒズマスターピースは28日(水)に坂路で60秒2ー44秒6-15秒0と軽いところを乗り出した。様子を見ながらだけど、11月中旬から後半の東京で使えそうなので、体調を見極めつつ調整していきたい。今度はもう少し距離を詰めようという方向で話を進めている。

▲カイバをもりもり食べるヒズマスターピース(10月29日撮影)

奥村武厩舎での新たな日々――
かつての仲間との再会と厩舎の今

しかし、奥村武厩舎で働き出してから2週間ほど経ったが、テキ(奥村武師)の印象は自分の厩舎で助手として働いていた頃とは結構違うね。そのときは、本当に「熱血漢」という言葉が似合うタイプで、オレにもドンドン意見をしてきたしスタッフにも色々言っていたんだ。

もう一人の助手と先頭に立って、あれもやろうこれもやろうと、すごく積極的に厩舎を動かしてくれていた。まぁ、オレが少しいい加減なものだから、それで厩舎が巧くいっていたのもあるかもしれないけど(笑)。

なので、いざ働くときは以前のイメージが残っていてちょっと身構えていたところもあったんだ。でも、自分の厩舎の看板を上げて調教師になった今は、だいぶ穏やかになっていたんだよね。

やはり、誰かの下で働くところから人を使う立場になって、スタンスというか見方を変えていったんだろうね。スタッフの意見もキチンと聞いて取り入れているし、いい厩舎だと思うよ。

レースにも乗って、調教も手伝っている岩田康誠騎手からは、一部で(?)有名な「インは近道」のTシャツと、販売もされる「TAKE THE INSIDE」のキャップを厩舎にまとめて配ってくれたから、それを被って仕事をしている。そんなこともあるからか、厩舎全体がいい雰囲気だよね。

▲「TAKE THE INSIDE」のロゴ入りキャップを被りポーズをとる国枝厩務員
先週の菊花賞は、残念な結果だったけどチャリングクロスが走ったし、今週の天皇賞・秋にもホウオウビスケッツが出走する。こちらもぜひ、応援してください。

菊花賞を振り返って――
三冠達成の難しさと巡る運命

それにしても、先週の菊花賞は三冠がかかったロブチェンが負けて、(武)ユタカのゴーイントゥスカイが勝利と、いかに三冠を獲るのが難しいかが改めてわかったね。

ロブチェンはスタートで出遅れて、逃げ馬がハイペースで飛ばしたものだから組み立ても難しかった。反対に勝ったゴーイントゥスカイは内で折り合って我慢がきいていて、直線でも進路が巧く開いたからね。

シックスペンスで今年の安田記念を勝ったときのユタカも、流れから何から全てが巧く運んでの勝利だったし、勝つときはそういうものだよね。

アパパネやアーモンドアイの三冠がかかった秋華賞では、アパパネは予定通りのローテーションでキッチリ狙っての勝利。アーモンドアイは調整に狂いが出たけどモノが違う勝利と異なる状況ではあったんだが、やはり運も実力もないと達成できないのが「三冠馬」なのだろう。

牝馬とはいえ、それを2頭も手掛けられたのは本当に幸運だった。そんなことを思いながら見ていた菊花賞だったよ。

(執筆:守屋貴光)


守屋貴光
情報トランスポーター

守屋貴光

情報 美浦 取材

「視点を替えれば真実へ近づく。競馬も芸能界も同じです」──かつて某・有名芸能誌で毎週のようにスクープをスッパ抜いていた根っからの情報屋。競馬界に転身した今となっても"ウラ"を読むクセが抜けず、真の情報を求めて現場を奔走する。現在は厩務員として過ごす元調教師・国枝栄をはじめ、GⅠ常連陣営の取材担当も歴任している。 (担当厩舎:蛯名利、大竹、栗田徹、黒岩、鹿戸雄、高柳瑞、畠山吉、松尾)



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※次回は11月6日(金)更新を予定しています。